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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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ユアン・ラングラーは思惑を実行する

「亡命とは穏やかではない」

「それほどことを大げさにする気はなかったのですが」

 首相を頂点とするこの国の権力機構に、近隣の国にはめずらしく宗教指導者の関りが薄い。この宗派はそれなりの保障があれば政に口を出す気はないらしい。確かに宗教への待遇は手厚いし、指導者たちへも寛容である。だがその分、政権との境界線を越えることは許されない。

 ユアン・ラングラーは昼と夜と共に国を出た時、亡命する意志は無かった。自分の国はジャンジャックと同郷の、三つ子の国の更に南にあり、国内に亡命しなければいけないような切迫した問題点はない。

 ただし。

 ユアン・ラングラーは人好きのする男前な顔に微笑みを浮かべて目の前の人物を見つめる。

「私にも諸般の事情がありまして」

「ほう。それはそれはたくさんありそうですな」

 グラカエスから紹介を受けた男はこの国の首相に近い要職についている。もっとも男を頼らなくても外務関係の伝手でこの国で暮らすことはできただろう。だが亡命という方法をと考えた時、世界に、少なくとも自分に関係する世界に広めるには強い力が必要だった。

 簡単に手出しをさせないためだ。

「この国は移民に優しいので助かります」

「受け入れていかないとやっていけないというところもあるのでね」

 人口の増減は国の盛衰に直結している。増えすぎても減りすぎても困るが、近年、この国は減少に傾いている。汚れ仕事を請け負っていた下層階級の人々が近隣の国に出稼ぎに行ったまま戻ってこない。老年が増えれば生まれる子供の数も減る。世界中が急激な変化を見せているこの時に、人口の減少は存亡の危機とも言えるのだ。

「……ところで」

 いい加減、焦れていたのだろう。ユアン・ラングラーの斜め向かいに座る太った男は、キチキチと張りつめたシャツに包まれた腹を揺らしながら、少しだけ体を前に傾けるようにして続けた。

「あれはどうされましたかな」

 ユアン・ラングラーは「そうでしたね」と、さも今思い出したと言わんばかりに笑顔を大きくした。

「あれはちゃんとご用意しておきましたよ。今頃ご自宅についているところでしょう」

 男は顔を顰めた。

「持ってきてくださると思っていたんですがな」

「そんな危ないことはできませんよ」

「……そうですな。じゃあ」

「これで」

 ユアン・ラングラーは先回りして立ち上がると、男に背を見せることなくドアを開けると退出を促した。

 これでひとつ問題が解決したという心よりの微笑みを浮かべながら。





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