昼は知らせに首を傾げる
「亡命?」
昼は恩師から受け取った電信速を読み、首を傾げた。
「なんだって?」
恩師は自分宛の手紙から顔を上げた。眉根が少し寄っている。あまり嬉しくない内容だったようだ。
「学園都市でお世話になった方が、亡命されたそうです」
そう言いながらも、昼はまた首を傾げた。
ユアン・ラングラーと亡命という言葉が結びつかない。それにこの国から亡命する理由が思い当たらない。命の危機を覚えるほどの何事かがあるということなのだろうが、亡命、と言ってしまうというからには身を隠しているわけではなさそうだ。
「亡命とは穏やかではないねぇ」
「はい」
きっと昼にはわからない理由があるに違いないが、昼は考えてもわからないことは考えないことにしている。最近はその傾向が強くなった自覚もある。考えても仕方がない。
「先生のお手紙もよろしいことでは無かったのですか?」
「おや、顔に出てしまっていましたかねぇ」
恩師は薄い頭髪を自身で撫でながらひとつ溜息を吐いた。
「なに、宗派対立という奴だからね、これはもうどうしようもないんだよ」
「そう、ですか」
世の中に宗教は数多あるが、この国の宗教は世界の主流で、そのお陰でどこへ行っても不自由することは少ない。受け入れる、が教えの基本であるからだ。
だがしかし、どんな宗教にも派閥というものがあり、信徒が多ければ多いほど派閥も増え対立も増える。そのうち別の宗教と分かれてしまうことも珍しくないし、争いは絶えない。
昼はそういう争いの話を聞くと、宗教とはなんだろうと思わずにはいられない。
「こんな小さなところには関係ないと言いたいところなんだけどねぇ。どこかに属さないと煩いことも多くなってねぇ」
恩師は派閥とは無縁でいたいようだが、そうもいかないと頭を抱える。あの国の内乱は宗派の対立が関わっているからである。
恩師は再び溜息を吐いてから昼を見た。
「それでもこの国から亡命するっていうのは不思議な気がするねぇ」
恩師が昼の手にある電信速の小さな紙に目を移す。
「そう、ですよねぇ」
昼もつられたように溜息を吐いた時、僧侶見習いの少年が戸を叩いて客の到着を告げた。




