朝は知らせに驚く
賄賂と称する薬を始め、ヒナダは細々と仕入れて荷物を増やしたが、ハバラはもう文句は言わなかった。ラバは賢く頑健だし、ハバラもヒナダも多少荷物が増えたところで足取りが重くなることもない。
「届いていたぞ」
そしてヒナダはいくつかの手紙も持ち帰った。
「これはお前にだ」
ハバラはヒナダから渡されたいくつかを手早く仕分け、朝にふたつほど渡した。ひとつは夜から、もうひとつはグラカエスからの電信速だ。電信速は宛名さえわかればどこでも受け取れる。だが届いているかを調べて判明するまでに時間がかかるので、どれだけ短い文面でもかなり日にちが経っている。
「3週間くらい前に、夜は別の町に着いたみたい」
「そうか」
「寺院からは、ユアン・ラングラーさんが亡命したと。え、亡命?」
「亡命?」
「誰だそれ」
朝は驚き、ハバラは怪訝な顔をし、ヒナダは首を傾げた。ヒナダはユアン・ラングラーに会っていないから当然だが、ハバラは「あのうさん臭い男が亡命なんてするだろうか」とまで言う。朝はその言葉に内心頷いてしまったが、かろうじて口には出さなかった。
「かなりいいおうちの嫡男だと聞いたけれど」
朝は夜から聞いた事を思い出しながらグラカエスからの短い文面を見る。
――ユアン・ラングラー 亡命 寺院に逗留中
寺院に、ということは、不自由が無かったはずの宿から移ったということなのだろう。護衛や秘書たちも一緒だろうか。
――お祈り、しているのかしら。
三つ子がいた離れにフォン師がまだ滞在しているなら、本院のどこかの部屋に逗留していることになる。グラカエスは客人といえども祈りの時間を略することは許さないだろう。
――なんとなく、不思議な気がする。
それほど知らない人ではあるが信心深いように思えない。朝はどうして亡命したかより、寺院にいるという方が気になった。だがもちろん、本来は「なぜ」亡命したかの方が重要だろうし、ハバラはそこを気にした。
「なにを考えているんだ」
「あの国から亡命する必要あるか?」
「そういえば」
ユアン・ラングラーは三つ子と同じ国の人だった。
朝がそうだったわぁと呟くと、ハバラとヒナダは揃ってため息をついた。