朝は足止め中
「仕入れとしてはこんなもんだろう」
「多いぐらいだ。重くなる」
「売りながら行くんだ。このぐらいでいいんだよ」
「……こっちは」
「これは賄賂だな」
「なるほど」
ハバラが顔を顰めて開いている袋を覗き込んだ朝は、微かな匂いに同じように顔を顰めた。
「これが賄賂?」
ふたりの顔を見ながらヒナダが笑った。
「ここから東の国では貴重な虫だ。ハバラ、お前さん、現物見たの初めてか」
「え、虫?」
「ああ」
朝とハバラの声が重なった。朝が袋からハバラへ視線を移す。
「初めて?」
「ああ。聞いてはいたが」
ヒナダがハバラの手から袋を取り上げると、くるくると紐を巻いて口をしっかりと縛る。
「生きてるの?」
「まさか。これは乾燥させてある。薬になるんだ」
「薬?」
「簡単に手に入る薬じゃないから普通は知らない。痛み止めとしてはかなり良く効くが、繰り返し使うと中毒になる。まあ、薬ってのは毒にもなるもんだ」
「ほう」
感心したように袋を見つめる朝に苦笑しながら、「もうちょっと仕入れたいものもある」とヒナダはハバラを見返す。
「必要か?」
ハバラは窓の外を見る。町に着いた途端に降りはじめた雨は、しとしとと1週間も降り続いている。商家のお嬢様らしくと、広々とした部屋を2部屋も押さえているので宿代もばかにならない。
だがハバラはもちろん料金よりも情勢を気にしているのだ。時が過ぎて内乱が落ち着けばいいが、反対に騒動が広がるとますます移動がしづらくなる。そして今のところ、内乱が収まってきているという情報は入ってきていない。
「雨もしばらく続くだろう。焦っても仕方ない」
「ああ」
ひとつ息を吐いて、ハバラはヒナダに頷いた。
「仕方がないな」
よし、と軽く膝を叩いて立ち上がったヒナダを見上げ、「私も外に出たいわ」と言った朝に、ハバラとヒナダは揃って首を横に振った。
「駄目だ」
「やめとけ」
もちろん、それには理由がある。




