夜は覗きこむ
確かにモリー・ロビンソンは再び夜の前に現れた。
「あらためまして、こんにちは」
「こんにちは。初めまして」
「あ、そうだよね。初めましてだよね。昨日初めてだもんね。あらためまして、初めまして。モリー・ロビンソン、20歳です」
「あらぁ」
思っていたより若かった。日に焼けた肌が目元に小ジワを作っていて、若々しい笑顔に反して年齢を上に見せているからかもしれない。
夜が名乗ると、青い目が不思議そうに見開かれた。
「夜さんというのね。ああ、でも通称っていうの?」
「そう、そう呼んでもらっているうちにその名前になったっていうか」
「そうなんだ。面白いね」
「そうかしら」
夜は面白いと言われたのは初めてだった。
「私はモリーでいいよ。みんなそう呼ぶの。夜さん、夜でいい?」
「ええ、あの、いいわ」
モリーの物怖じしない様子に、夜は少し怯んでしまった。そんな夜の様子すらモリーは気にしない。
「で、あの預けたのなんだけど」
「あ、はい。どうぞ」
「ありがとう。夜は信頼できると思った私、勘がいいよねぇ」
そう言われたところでなんと返していいかわからず、やっぱり怯んでしまう。夜は返事をしないまま、モリーの手のひらに預かっていた小さな皮袋を乗せた。
「見た?」
「え?」
「ああ、ごめん、ごめん。っていうかさ、普通だったらなに預かったかって確かめるでしょ。それに別に見たって構わないんだ。戻ってくればいいんだから」
「なら」
「持っていて取られるのはまた別でしょ。戻ってくるとは限らないから」
言いながらするっと皮袋の口紐をほどき、中身を出して「ほら」と夜に見せた。
ポンポンと話すテンポがよくて、夜は引きずられるように手のひらを覗きこむ。
小柄な背丈のわりに大きめの手のひらの上には、小さな動いていない懐中時計があった。




