夜が答える間もなく
――もしかしたら。
夜は傾げた首を元に戻しながら考えた。
明るい金色の巻き毛は肩の上で四方八方に跳ねていて、やはり明るい青い色の目と相まり、その持ち主を殊更に陽気に見せている。
「この辺りだったら民家も遠いから大丈夫と思ったんだけど。まさか人がいたとはねぇ。それもこんな美人がねぇ」
えへへと笑った顔が幼く見える。
――やっぱり。
女性だったのだと気がつき、夜は顎に手を当て、珍しいこと、と思った。
飛行機乗りなどの厳しい訓練がいる技術職に女性が入ることは滅多にないと聞くし、軍を退役した人など、機械に慣れている人の就く仕事という印象がある。
そばかすの散った日に焼けた顔をぽりぽりと掻いている女性は夜と同じくらいの年齢か、もしくは少し若いかもしれない。退役軍人でもなさそうだ。
「でも人に知られると面倒なんだよね」
と続けた言葉に夜が返事をするより早く、「ま、無理だったかなぁ」と彼女は溜息をついた。
振り返ると、夜が泊まっている村の方から人々が駆けてくるのが見える。存外に多くの人の興味引いてしまったようだ。
「ああ、こっちもかぁ」
隣国の方からも人々が駆けてくるのを見た彼女は溜息を大きくしたが、すっと近づくと、顎に添えていた夜の手を取って何かを握らせた。
「あなた、名前は?」
「え?」
「私はモリー・ロビンソン。あなたは、あ、間に合わない。連絡するまで持っていて」
そう言うとパッと突き放すように離れてから、大仰に腕を振り回しながら叫び始めた。
「だから、言葉、わからないんですぅ」
何を答える間もなく彼女は大勢の人々に囲まれてしまい、夜はその輪から離れたところへと零れ出て、「あらあら」と呟くことしかできなかった。