夜は首を傾げる
いま見たものが信じられずに、それでも夜は何かが落ちた方へと足を向けた。好奇心が少しと、不安がもう少し多く、あとは衝動と役に立つかもしれないという思いもあった。
「……飛行機、にしては小さい?」
近づけば、それは夜が見たことのある飛行機よりもふた回りは小さい。国境は越えているはずだからそこはすでに隣国であるはずだが、やはり誰もいないため、夜は用心しながらも近づいていく。
国境を越えるそこは草丈が少し高いかもしれない。と思う程度の差はあるが、何もないのも変わらない。
「……やっぱり……なら重さ……」
ぶつぶつと声が聞こえる様子から、大怪我をしているということもなさそうだ。
「こう何も無いと隠せないし……えっ?」
夜が近づく音が聞こえたのだろう、がさがさっと草が揺れ、草の上にぴょんっと顔が飛び出した。
「あ」
その人は、慌てたようにわたわたと腕を振り回した後、唐突に「あ、わたし、ことば、わかりませんので」と言い出すものだから、夜はどうしてよいのかと首を傾げた。
草をなぎ倒して横たわるそれは、壊れているようではあるが、やはり飛行機に似ているように見える。だが煙が出ていないし、油の匂いもしないことから、夜の知る飛行機とは違うのかもしれない。
「……まあ、無理があるか」
ひとりで納得したかのように頷いた後、その人は困ったように頭を掻きながら、夜に向かって「お願い」と手を口の前に立てた。
「見逃して?」
夜はますますどうしたらよいのかと、首を傾げたままで眉を顰めた。