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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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出立。

 3人の小さな家は、村からかなり外れた所に1軒だけぽつんと建っている。村は町の端に、町は小さな国の境にある。

 国は東と西の中間にある。境にあるから、様々な国から様々な人々がやってくる。住み着く人もいれば、通り過ぎる人もいる。何度も繰り返し訪れる人もいれば、2度と来ない人もいる。

 交易が盛んでそこそこ富んでいる国なので移民も多い。三つ子の両親も移民だった。安い土地を買い、家を建て、畑を作り、そうしてこの国に落ち着いた頃、揃って事故で死んでしまった。

 三つ子の本当の名前は舌を絡めるような発音が難しい。両親がいなくなった今では、舌を噛んでしまうその名前で呼ぶ人はいない。

 その事にすっかり慣れてしまった3人は、自分たちが本当の名前で呼ばれないことを気にかけていない。



「朝はどこへ行くって言ってたの?」

「東」

「東?」

 夜は鞄を足元に置きながら、怪訝な顔で昼を見た。

「東には冒険があるんだって」

 夜の顔がますます不審気に曇る。

「冒険? なんのこと?」

「知らないわよぅ。それ以上は言わなかったし。とにかく東に行くって言ってたの。それだけ」

「……わかった。じゃあ、私は西に行く」

「西?」

 聞き返しながら、昼は手に持っていた食器をきちんと揃えて棚にしまった。

 昼自身はどこへ行っていいものか判断をつきかねている。それでも、早くここを出なければという焦りがあって、焦ると昼は、余計に物事をゆっくりと慎重にこなそうとする。誰もいなくなるなら、片付けはきちんとしておくに越したことは無い。

「東に冒険があるなら、西にもあるわよ」

「そう、そうね、そうかもしれないわね」

「戸締りよろしく」

 話し合って決めたわけではないのに、夜は昼も家を出るものだと決めてかかっていた。昼もそれを当然と思っている。

 だから昼は「わかった」と頷き、「いってらっしゃい」と続けた。

「気をつけてね」

 一瞬見詰め合ってから、ほぼ同じ顔に同時に苦笑が浮かんだ。

 なんだか間が抜けている。いったいなにをしているのだろう。

 夜は苦笑を近頃見せなかった笑顔に変えると、「じゃあね」と手を振って家を出た。

 生まれた時から離れた事の無い三つ子が、揃って家を出なければという気にさせたものはなんだろう。とりあえずの原因は男と言うしかない。きっかけは間違いなくそうなのだ。

 ちょっと古風な顔をした飛行機乗りは、荷物の配達や通信業務だけではなく、曲芸飛行までやって見せた。そして三つ子のそれぞれにいい顔をしたあげく、区別がつかないと言って飛んでいってしまった。もっとも彼が飛びさった後の村では、同じように愛想を振りまかれた娘達の間で、今でも険悪な空気が流れている。

 けれども三つ子みたいに同じ家で暮らしていなければ、後は時が解決してくれるのを待てばいいだけだろう。いつでもお互いしかいない3人では、時が解決するのを待つことさえも苦痛でしかなかった。ぎくしゃくという音が聞こえるほどに静まり返った家の中で。

 だから、やはりきっかけは飛行機乗りにあるのだ。

 だがしかし、本当の理由は飛行機乗りにあるわけじゃないということぐらい、3人ともよくわかっているのだ。


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