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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は衣装を纏う

「似合わねぇな。却下だ」

 ヒナダの投げ捨てるような言葉にも、ハバラは顔を顰めただけだった。似合わないことは自分自身がよくわかっている。

――それにしても。

「笑いたければ笑え」

「……ごめんなさい」

 朝は首を竦めて謝った後、ふうっと息を吐いてなんとか笑いを押し込めた。

――それにしても。

 朝は思う。

――綺麗というのも考えものなのね。

 この先を行くなら、尼僧や巡礼の格好はよくないだろうというのが、ハバラもヒナダの一致した意見だ。どうも僧侶が注目されているらしい。目立たないであろう服装を選ぶ必要があると、いくつかの衣装をヒナダが抱えてきたのだ。

 ヒナダは面白いぐらいなにを着てもそれらしく見える。どこぞの国の王族と言っても通るような豪奢な衣装を着ても、家を失って何年も過ごしてすっかりすれてしまった人間にも。どんな人にもなりきれるところは、さすがとしか言いようがない。

 朝はとにかくハバラの服装に合わせた方が無難だろうとなったのだが、肝心のハバラは何を着てもハバラにしか見えない。それはおそらく朝がハバラに慣れたからとも言える。

 ハバラだって実はなんでも似合う。ただし、それは何を着てもどんな服でもその美しい顔が目立つという意味で、なんでも似合うということだ。

 主役しかできない舞台俳優。

 たとえ脇役をやろうとしても目立ちすぎてしまって、結局は主役しか与えられないという気の毒な俳優のようだと朝は考えた。

 もっとも、朝はこれまで舞台演劇を2度しか観たことが無い。両親が生きていた時に1回。亡くなって4年後に1回。それを覚えているのは、半年ほど遅れた三つ子の成人の祝いを、慌てて恩師がしてくれたからだ。

 ヒナダが用意してくれた商家風の服も、流れの職人の衣装も、ハバラの美しい顔を引き立てる役にしかたたない。新興宗教の牧師の衣装がなぜかどれよりも嘘くさく見えて、朝は笑いを堪えられなくなったのだった。

「宗教が違うと似合わないものなのね」

「……信仰の問題だろう」

「顔の問題だ。お前は元の僧服に戻せ。その方がまだまともだ」

 ハバラは肩をすくめてから、「そうだな」と頷いた。砂漠で出会った時の僧服は、やはり一番しっくりとくる。

「なら私は」

 尼僧の服に戻ろうとしたところ、ヒナダがほいっと何枚かの布を投げてきた。

「あんたはそれ」

「これは?」

 広げたショールはかなり特徴のある文様が織り込んである。ヒナダがここへ来た時、「よく手に入ったな」と、ハバラが喜んだものだ。

「これから行くところのお嬢様の服だ」

 ヒナダがにやりと笑う。

「それって、目立ってしまうのではないの?」

「近くなればその顔立ちは服と一緒に紛れる」

 ハバラが「迷うこともなかったな」と、ショールをあてた朝を見て息をつけば、「まったくだな」とヒナダも頷く。

 こうなれば朝も頷くだけで、あとはこの何枚も布を重ねた不可思議な服に慣れるよう努めるしかなかった。








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