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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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夜は国境で

「誰もいないわね」

 夜はぐるりと見渡してから、そっとつま先を踏み出した。

 その先は隣国のはずなのに、国境を示すもの街道沿いの並木だけである。細い樹影が続いて線のように見える。

「国境なんて言ったって、なんにもないのよ。検問すらないんだから」

 学園都市を出てから2軒目の宿屋の女将がふくふくとした頬を揺らして笑いながら言ったとおり、国境は並木しかない。

 村の境にあった並木と同じようだが、ここには村にはないものがあった。並木の下に、等間隔に岩が並んでいる。だがそれはかろうじて岩の頭が点々と出ているからわかるだけで、気がつかなくても無理はないし、小石と思って見過ごしてしまうようなものだ。

 夜も最初は気がつかず、ふっと足元を見て違和感を感じ、屈んでどけようとしても動かないことで、初めて岩と言うほど大きいとわかったまでである。

「……まあ、だからって何が変わるわけでもないのね」

 誰もいない国境の並木から隣国へ足を踏み出したところで、誰もいないのだから誰かに咎められることもなければ、捕まることもない。

「密入国とか、というのもないわよね」

 そもそもこの並木にほど近い小さな町は、隣国の並木より少し離れた町と常に商業的な交流をしている。交流と言ってもそれほど利益があがる商売はないようで、ほとんど作物の物々交換に近いらしい。

「どっちもちっちゃな町だからさぁ、近いだけしかいいとこがなくってね。なんか欲しいってなったら、自分とこの大きな市に出ちゃった方が、結局は早いのよぉ」

 そして冬も深まると、並木沿いは雪で通れなくなることもあるのだと女将は続けて言うほどだから、確かに検問などは不要なのかもしれない。

「……だから国境が成り立っているのかも」

 呟いた夜の耳に、遠くからなにか羽音のようなものが聞こえてきた。見上げると、西の方角からなにか近づいてくるものがある。

 夜は足元を見て、見上げ、また足元を見てから空を見上げて、再び呟いた。

「国境の警備? というわけでもない、の、かしら、あっ」

 それは意外なほどの速さで夜の頭上を通り過ぎると、呆然と見つめる夜の視線の先、隣国との境の向う側で墜落した。






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