昼は不審を覚える
「……久しぶり」
てっきりジャンジャックだと思って振り向いた昼は、今回は誰かを考える必要はなかった。
「……なにか御用でしょうか」
昼の言葉に、飛行機乗りは口を何度か開け閉めして躊躇った後、恐らくもう少し柔らかい言葉が返ってくると思っていたらしいが、それでもなんとか声を出した。
「いや、あの、元気かと思って」
夜にも朝にも、最近出会ったたくさんの人からも、「飛行機乗りには注意をするように」と言われていたおかげで顔を覚えていた。そうでなければ、この間のように考えてしまったかもしれない。そのぐらい、昼の中で飛行機乗りの存在は薄くなっていた。
――本当に来るとは思わなかったし。
果たしてまたも現れた飛行機乗りの目的は、三つ子にとって良い話ではないのだろうとわかる。それにやっぱり三つ子の誰と話しているのかを、飛行機乗りはわかっていないのもわかる。
「ええっと、だからあの」
「誰?」
昼はこれほどジャンジャックが居てくれたことを有難いと思ったことはなかった。心配過多なその気持ちをうんざりし始めていたことが嘘のように、ほっとして笑顔が零れた。
ジャンジャックは昼の顔を見て、二の句が継げなくなって再び口を開け閉めしている飛行機乗りを見て、また昼を見て、目の前の男が誰だか理解したらしい。
「なんの用?」
昼を庇うように間に入ると、1歩、飛行機乗りへと近づいた。
飛行機乗りが1歩後ずさる。
ジャンジャックが1歩近づく。
飛行機乗りは1歩後ずさる。
そうやって言葉の無い攻防を何度か繰り返すと、飛行機乗りは三つ子の家の敷地からはすっかり追い出され、村へと続く道を何歩か追われた。
そして飛行機乗りが何かの言葉を飲み込んでから、三つ子の家に背を向けて駆け出していった。
確実にいなくなったと思えるまで道を睨みつけてから振り返った時、昼が「お願いがあります」と両手を組んで見つめてきたため、ジャンジャックは「うわっ」と小さく叫んで、思わず腰を抜かしてしまった。
「……大丈夫ですか?」
「ああ、あ、いや、大丈夫。ええっと、あの、お願いって?」
ジャンジャックは昼が助け起こそうと差し出した手を「いやいやいや」と遠慮してさっさと立ち上がる。
「いくつか連絡を取りたいところがあります。手を貸していただけませんか?」
ジャンジャックは昼の願いに「喜んで」と答えて笑った。