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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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三つ子は手紙を書く

「1番いいお部屋なのよ」

 小さな宿だが清潔で、そこここに置かれた古めかしい家具がきれいな艶をもっている。

 通された部屋もベッドと机と小さなラグが置かれているだけなのに、ホコリひとつなく、ずいぶんと落ち着いた心地のいい雰囲気がある。

 夜は最初に手紙を書いた。朝への文面は小さなメモにしかならなかったが、そもそもそれほど長いものは送れないのだから仕方がない。

 それから温かいコーヒーを入れてもらった保温瓶を受け取ると、まず郵便局へ行って手紙と電信速をお願いした。電信速は手紙の3倍の値段がかかる。夜は多めの小銭を用意しておいて良かったと思う。

 南北に細長い国の最も西に近い市から夜は、昼には手紙を、朝には電信速を、学園都市の家にはやっぱり手紙を、そしてアシに少し長い手紙を出した。




 昼はジャンジャックを伴いながら畑を見て回り、そこから村へ行って恩師と話をした後、馴染みの問屋で作物の苗と種の話をしてから、ジャンジャックと家へ戻り、周囲を見て回ってもらった後に、どうもありがとうと送り出してから、手紙を書き始めた。

 恩師が次に隣村に行くまで電信速は出せないけれど、朝には無事に家に着いた以上のことはいらないだろうからそれは口頭でもいいだろう。学園都市の家へとサマンサ・フロイラ夫人へ簡潔な手紙を書く。連絡が来た時にすぐに返せるようにと、夜に宛てた文面を書いておく。これは少しずつ長くなっていくだろう。




 朝はびっしょりと汗をかいて起きる。心臓が跳ねていて息苦しく、いきなり目がぱっちりと開いてしまってどこを見ているのか自分自身でもわからない。

 ハバラは何も言わずに、まず乾いた布を、それから保温瓶にいれてある、まだまだ温かいお茶を差し出す。

「……ありがとう」

 そのひと言を出すのも精一杯なのだが、不思議なことに自分の声を聞くと少し落ち着く。そして黙ったままのハバラの手へカップを戻すと、また横になる。すると今度は夢も見ずに寝られる。

 自分で思っているよりも参っているのがもどかしかったが、仕方がない。

 そんな日が減り始めたと感じた時、ヒナダがふらっと顔を出した。

「遠いんだよ」

「その割に早かったな」

「ふん、なめてんじゃねぇや」

 ふたりの会話を聞いて朝はふふふっと笑い声がこぼれた。

「なんだ?」

 と、気の合ったふたりの返事に、朝は「妹達に手紙を書いてもいいかしら?」と答えた。ハバラは肩をすくめて頷き、ヒナダは「いつでも出してきてやるよ」とひっそりとした笑顔を見せた。


 










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