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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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夜はひと息つく

 夜がもともと国外に行くつもりはないと言っていたからか、カナイ・エンイ博士は他の人達ほど心配はしていなかった。

「ほんとうに大丈夫かしら」

 それでも思わず聞いてしまったのは、やはりこのきれいな女性が国内と言えどひとりで旅をするには世界は少々不安定に思えたからだ。

 だが博士がフィールドワークを始めた時に比べれば、列車も時刻通りで、宿も食堂も増えている。国内で言葉は通じるし、逃げこむにはちょうどいい寺院や教会の場所はかなりの数を網羅した地図も用意してある。これは博士がここまで培ってきた情報をこれでもかと入れて作り、リ・シャンイー教授が手を加えたもので、昼にも用意したし、朝にも送られている。

 けれどこれを使いこなせるのは夜だろう。

「これ、ありがとうございます」

 夜が微笑むと、カナイ・エンイ博士もつられて微笑んだ。博士は昼と夜を見分けることはできないが、夜の方がちょっと大人っぽいと思っている。娘ほどの年の女性なのに、はっとする美しさにどきどきさせられるのが、博士は不思議に嬉しく感じる。

「いいのよ。役に立てばいいわ」

「はい、きっと。大切に使います」

 夜の乗る列車が見えなくなってから、博士は助手のふたりに行きましょうと声をかけた。



 夜は列車の狭い個室にひとりになって、保温瓶のお茶を口にして、なんだかやっと息をつけたような気がした。

 ひとりになる心細さや不安が無いわけではなかったが、姉妹以外の人たちと長く一緒にいたことがなかったからか、どこか落ち着かない気持ちがあった。状況が緊張を強いているから、いまこの時も安心できるわけではないのだが、ひとりで何もかも決められる事は、夜にとっての自由だ。

 保温瓶に入れたお茶は昼が好きなブレンド茶で、「気持ちが落ち着くのよ」と真面目な顔で言っていた。そのせいかもしれないとひとりで悦にいって、もう1杯と蓋を兼ねた小さなカップを満たす。

 車窓に夜の顔が反射するほどに日は落ちた。明日早くに着く駅で降りる予定だから、ずいぶんゆっくりできることになる。夜は膝に抱えた荷物からサンドイッチの包みを取り出して広げた。









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