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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼と夜はスカーフを広げる

「結局台下にはお会いできないようだわ」

 今更驚きもしないというように夜が言えば、昼は軽く肩をすくめる。

「もう会わなくてもいいんじゃないかしら」

 ふたりは揃ってそうねぇと頷いているのを見ながら、ジャンジャックは「それじゃあ、帰る用意をするかな」とそわそわしはじめる。

「いいえ、もう少しかかります。ジャンジャックさん、お仕事もおありでしょうからお帰りいただいても」

 昼が言い終える前にジャンジャックは大きく首を振る。

「いやいやいや、大丈夫だよ。危ない時には傍にいないといけないし」

 これは先日、恩師から事故についての報告が長文の手紙でリ・シャンイー教授宅へ届いたことにもよる。ジャンジャックの心配性を大きくするような事も書いてあったからだ。

 境の向うに落ちた小型飛行機はしていなければいけない登録とやらがされておらず、どの国のものとも誰の物ともわからなかったこと。逃げた男は行方知れずのままだが、不思議なことに僧院のラバはひょこりと寺院に帰ってきたということ。これは鳴き続けるラバの持ち主を探してくれた親切な隣国の人のお陰のようだが、恩師の文章が回りくどくてわかりにくい。ラバが戻ってきたことは伝えたくても、その経緯はあまり言いたくないとかそういうことなのだろうと、昼と夜は考えた。

 飛行機乗りが行方不明な以上、また戻ってくるともしれず、気をつけた方がいいということも付け足してあった。

 夜の顔は見られているし、昼と夜の区別はつかないだろう。

 ジャンジャックは村からかなり外れたところの、周囲に家の1軒もない三つ子の家を知っている。

「そうそう」

 夜は会えないという完結な手紙を置き、鞄の中から取り出したスカーフを昼に手渡した。

「これはやっぱり台下にはお渡ししなくていいと思うの。お会いできないのに押し付けるような真似はできないわ」

 朝が紡いだ絹は3枚ほどのスカーフが織れる程度の量しかなかった。それでも1枚の大きさはサンドイッチ1食分を包むにはちょうどいいし、上質な絹は強くて滑らかで気持ちがいい。

「そうね。……グラカエス様の寺院に送れば朝に届くかしら」

「それが1番いいと思うわ。送る手配をするわ。だからこれは昼が持っていて」

 昼はスカーフを眺めながら、「刺繍をしようかしら」と夜を見た。

「名前を入れたらどう? 朝の名前」

「……朝、と入れるの?」

「……いいえ、椅子にある名前」

 夜はしばらく考えてから、「わかったわ。じゃあ、私のは昼が刺してくれる?」と答え、昼は「もちろんよ」と微笑み、ジャンジャックはそっと姉妹の傍を離れて修理の必要な箇所を探しに行った。








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