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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼は驚いて戸惑う

 昼は困ったように、玄関に立つ人を見上げた。

「ちょっと早く来すぎたよな」

 にっこりと笑いながら頭を掻くジャンジャックに、昼は溜息を堪えることができなかった。

「家に戻るのはまだ先だし、村の事故の事も詳しくはわかっていないので」



 学園都市のリ・シャンイー教授の家まではなんの問題もなく、国が変わるごとに、砂漠の向うで起きた内乱の影響もどんどん感じられなくなっていった。昼と夜はユアン・ラングラーの護衛に家まで送られたし、護衛が学園都市で2度ほど道に迷ったが、待ちかねていた教授とワンソウ夫人に迎えられた後、護衛は家に上がりもせずに早々に帰っていった。

「ラングラー氏のお願いはあまり気にする必要はない。と念を押しておいてくれと言われましたので、お気になさらずに」

 そのひと言がたいそう余計だと、昼も夜も思ったが、それは言わずに送ってくれた礼をして別れる。

「疲れただろう。今日は誰も来ないから、ゆっくり休みなさい」

「そうですよ。美味しいお菓子を用意してありますからね。部屋は前のままですよ」

 ほとんど自宅のように迎えられた姉妹は、苦笑しつつも有り難く言葉に甘えた。

 だから「とりあえず言った方がいいかも」とジャンジャックに連絡をしたのは、学園都市に戻った2日後で、だがジャンジャックはその次の日の日が沈む前に教授の家まで来てしまったのだ。


 

「……大きい方ねぇ」

 昼の横でワンソウ夫人がジャンジャックを見上げている。

 相槌を打っていいのかどうか躊躇いながら、そして中に招いてもいいか教授に聞こうと振り向いた時、昼の言葉を待たずにリ・シャンイー教授が吠えるように言った。

「納屋だ。庭の納屋だ。年頃の女性と同じ屋根の下というわけにはいかんっ」

――泊めるのはいいのね。

 夜が昼の1歩後ろで考えた時、昼しか見ていなかったジャンジャックは、やっと夜に気が付いた。

「うわっ、そっくりだね」

 夜が悪気の無いその言葉に微笑むと、ジャンジャックは束の間見惚れてから昼に向かって囁く。

「妹さんもとってもきれいだね。あれ、お姉さんだっけ?」

 囁いているつもりの声は玄関にいた全員に聞こえた。それはジャンジャックの後ろで成り行きを見ていたユウノ・エンゲにももちろん聞こえていた。

「素直な人だなぁ。納屋じゃ気の毒だから、僕の家に来てもいいよ」

「うわっ」

 いきなり背後からかけられた声に驚いて振り返ったジャンジャックが何か言うよりも早く、リ・シャンイー教授がまた吠えた。

「うちの客人だっ。だが納屋で十分だっ」

 ワンソウ夫人がとりなすように付け加える。

「ここの納屋はとても居心地がいいですよ」

 居心地はわからないが、体の節々が痛いとぼやくワンソウ夫人の指示のもとに昼と夜で掃除をしたばかりの納屋は、住んでも構わないほど整っているのは確かだ。

「寝具ならあります」

 夜は教授と夫人の言葉に、そしてすっかり覚えてしまった家の事々を思い出しつつ、付け加える。

「……そうね、教授が良ければ」

 昼も頷くと、ユウノ・エンゲは首を竦めた。

「皆さんがよければいいんじゃないの」

 1番背の高いジャンジャックが身を縮めるようにして頭を下げた。

「よろしくお願いします」

 そして「ありがとうございます」と浮かべた笑顔に、周りの人間は、良くも悪くも彼の無害さを実感した。




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