朝は噂の話を聞く
「噂にはさまざまな尾ひれがついて、俺たちが前に聞いたものの別のタイプが増えていた」
「別のタイプ、とは」
「内乱に関係した誘拐、人身売買、魔女の横行」
「魔女」
「デマだ」
ハバラは一刀両断にしてから、「1番流布しているのが、王族の行方不明だ」と言った。
「この内乱は東の果ての国が陰で手を引き、その中心部にいた王族が行方不明になっている。その王族を見つければ報奨金が貰える」
「王族。報奨金。ええっと、それは」
「デマだ」
「そうなの?」
「ああ」
ハバラは茶を飲み干すと、ポットに新しい茶葉を用意すると、脇に置いた火桶で湯気を立てていた薬缶から湯を注いだ。何も言わずに手を差し出すので、朝は「ありがとう」と、自分のカップを渡した。
ふたり揃ってひと息入れてから、ハバラは話の続きを始める。
「あの内乱は周辺国の事情と、宗教との軋轢から起こっている」
そのあたりの事情は、ハバラが砂漠にいたことと関係があるらしい。だがそれを詳しくは教えてくれないだろうと、朝もわかっている。
「そんな遠くの国の王族など入り込む隙はない。と言うか、どの国にも新しい権力は余分でしかないからな。必要ないものを入れて主張が弱まっても困るし、分け前が減っても困る」
「分け前」
「そんなものだ」
「はあ」
なかなか俗な理由だが、そんなものかもしれない。もっとも、「分け前」は朝が想像するようなことを上回ったものであるのは確かだ。
「それに東の国にも内乱に手を貸す理由が無い。遠いところの争いに関わって得るものはほとんどないうえ、自国にも問題を抱えている。手出しをしている暇などない」
「問題」
「どの国にもある」
「そうね」
それはそうだろう。朝は思う。のんびりとした村の中でさえ、小さな諍いから政治的な派閥まで存在する。面積や人口が増えれば問題はおのずと増えるというものだ。