朝は頷く
「問題はなかったか?」
戻ったハバラは朝の顔を見て、それでも確認するように尋ねた。
「何もないわ。宿の人が美味しいお茶を差し入れてくれたけれど、目の前で自分で入れて飲んでいったから大丈夫だと思うの」
「ああ、彼女はそういう人だな」
「お母さまも知っていると言っていたけれど」
朝は宿の女将が「フィンダサーナ様よりお父様似よね」と言ったと伝えると、ハバラは久々に盛大な渋面になった。
「余計なことを」
「私はお母さまに似ていると思ったけれど」
「父は母の従兄だ」
「なるほど」
納得と頷いた朝に、ハバラは小さな袋をいくつか手渡した。
「俺の話はいい。とりあえず食事だ」
どこにでも知り合いがいることや、どうやら名家の出身らしいことを聞きたい気もしたが、家族のことに踏み込むのも躊躇われる。話す必要があれば言ってくれるだろうと、朝はほのかに温もりのある袋を受け取った。
「美味しそう」
「足りなければ、明日は多めに用意する。今日はそれで我慢してくれ」
「十分だわ」
1日、手洗い以外に部屋から出ていないので、それほどお腹も空いていないが、食欲は少しずつ戻ってきている。柔らかくて白い饅頭のにはとろみのある野菜の餡が入っていて、これは列車で移動している時の弁当でよく売られていたものだ。村では見たことも無かったが、初めて列車に乗った時から、朝はこれが好きになった。
小ぶりのものが2個、食べきれるかと心配になったが、食べ始めればそれは杞憂だった。体も気持ちの調子も、上向いてきているようだ。
「……ヒナダと連絡がついた。2、3日で合流できるだろう」
「ヒナダさん? でもどうして?」
「あいつはお前を知っているし、俺はあいつを知っているから警戒しなくて済む」
「なるほど」
ハバラが用意してくれたお茶を飲みながら頷くと、ハバラは「食べたら話す」と、自分の分の饅頭を食べ始めた。
どうやって、と聞くのも、ハバラが食べ終えてからの方がいいだろうと、朝はゆっくりとお茶を飲んだ。