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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は商家一行と別れる

「迷惑をかけて申し訳ない」

 商家の当主は世話好きの50絡みの男で、隊を抜けると言う朝とハバラに、礼の他にも食料などを融通してくれた。

「私の見通しが甘かった」

 野盗を殺したのは護衛のひとりと、まだ子供と思える、ひょろひょろとした14になったばかりの青年だった。ふたりはもともと同じ国の出身で、内乱の最中に知り合い、逃げ延びてきたらしい。

「こちらの手も足りないこともあって」

 なんといっても大所帯で、混乱の最中である。碌な身元確認もせずに雇い入れたという。

「こんな時だから、お互いの助けになればと思ったんだが」

 普段なら手伝いはともかく、護衛は保証をしてくれる人なり、煩雑な手続きなりが必要なのだが、慌ただしい中であったのと、困窮していても背筋の伸びたよい態度であったため信用してしまった。

「まさかあんな噂を信じているとは」

 当主はそこで、朝とハバラの顔を、とりわけ朝の顔を遠慮なく眺めてからもう1度頭を下げた。

「まったくもって、申し訳なかった」

 そして声を潜めて付け加えた。

「だがこの先、とくに東に行くならそんな馬鹿々々しい噂を信じる者も増えるだろう。気をつけて行きなさい。できれば」

 行かない方がいいと続けたかっただろう言葉は飲み込んで、商家一行は街道を下っていった。



「噂か」

「噂って、誘拐が増えているって言っていたあの?」

 ハバラは頷きながら窓の外に目を向けた。こんな時に宿が取れたのは幸運だった。難民とともに、怪しげな人間も流れて混んできているせいか、寺院はどの宗派も一様に門扉を閉ざしている。普段なら朝がつけている腕輪すらいらないほど寛容な場所でも入れない。もっとも、いまは腕輪が狙われてはならないと、鎖をつけて首からかけているのだが。

「ああ。まさか本気で王族を狙う奴らがここまでいるとは」

 溜息をついた後、ハバラは「これも」と椀を朝に差し出した。遅い食事をとり、湯まで借りて息を吐いたばかりの朝は、椀の中身の青臭さにひるんだように少しばかり背を引いた。

「ゆっくり眠れる。飲んでおけ」

「……でも」

「続きは明日だ」

「わかったわ」

 目の前で起こった出来事は、この2日ほどの朝の眠りを妨げている。あれ以来傍を離れないハバラはもちろんそんなことはよくわかっている。だがゆっくり眠れる場所に来るまでは、無理して眠らなくてもよいと言っていた。ここなら、ハバラが寝ずに番をするにはちょうどいい大きさで2階にあり、街道にも近いこの部屋なら、ぐっすり眠っても構わないということだ。

「ありがとう」

 ハバラは何かを言いかけたが、結局はそのまま軽く手を振って飲めと促しただけで視線を窓の外へと戻し、朝もひるまないように一気に椀の中身を飲み干すと、眉根を盛大に寄せてからベッドに横になると毛布を首元まで引っ張り上げた。



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