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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は賊に出会う

「本当に強いのね」

 朝が呟いた言葉に、ハバラが律儀に返事をした。

「このぐらいなんとかできなければ砂漠になど行かない」

 それは半分ぐらいは嫌味もあったのかもしれないが、残りは本気だった。自分を守れるぐらいの、さまざまな意味での強さを身に付けないと旅など、それも修行を伴う旅などできない。この宗派で入門した時に初めに試されるのは、強さを厭わない心構えである。

「なるほど、覚悟が大事なのね」

 半分の嫌味に思い至らない朝は、素直に感心する。ハバラはそれ以上は応えずに、商家の当主から礼だと差し入れされた香りのいい水を飲み干した。



 商家の一行は十数人の大所帯で、護衛も数人付いているが、いかんせん荷物が多すぎるし、一行の列が長すぎる。何度か盗賊もどきの輩を追い払った後、最後尾の荷馬車に矢をかけられ、護衛がひとり負傷した。

「次の谷まで走れっ」

 それまで護衛に任せていたハバラが、列を離れ、馬が後ろ立ちになって興奮する荷馬車へと駆け戻った。朝はすぐ前を走っていた荷馬車の中から見ていることしかできなかったが、不安が沸き起こる暇もなかった。後ろで遠くなる馬車の前に躍り出たハバラは、飛んでくる矢をすべて剣で払い落し、囲む男達を容赦なく打ち据えていく。

 言われた谷に辿り着いて商家一行がなんとか落ち着いた時には、荷馬車を引いていた馬の1頭に乗り、「縛るための縄がいる」と悠々と追いついたのだ。

 幸い護衛の怪我も軽く、馬も荷も奪われることは無かった。縄を打った男たちをそのまま野に捨て置くという意見も出たが、最終的には次の町まで連れて行くことをハバラが納得させた。

「後から仲間が来ても困るからな」

 内乱が起これば暴動も起きる。争いのもとには野盗になる者も寄ってくる。どれだけの仲間がいるかもわからないうえに、殺されても寝ざめが悪い。町まで行けば賊の身元もわかるかもしれず、その方が利は大きいというのがハバラの言で、商家一行も、ハバラが護衛も兼ねるということで納得した。



 もっとも、もともとハバラは護衛として混ざるつもりで同行したのだが、僧侶様にそんなことはさせられないと、当主に固辞されてしまっただけなので、馬に乗って馬車の横を走る今の方が、ハバラは楽そうだと朝には見える。

「騎士の方が向いているのかしら」

 今度の呟きは、ハバラには聞こえなかったらしい。聞こえていないふりかもしれないが、朝も返事を期待していたわけではない。

「……そろそろだな」

 ハバラは日射しの加減を見て腰を上げた。護衛達も動き出しているし、旅慣れてきた商家の人々も出立の準備の手際がいい。朝が見習って、それほど多くない荷物を世話になっている荷馬車に積んだ時、最後尾の馬車から物音が聞こえ、何の気なし近寄ると覗きこんだ。

 馬車の中、簡易に仕切られた檻もどきに野盗は7人押し込まれていた。だがいま、たったひとりの男以外は皆、倒れてどうやら口から血を流している。男は手も後ろに、足首もがっちりと縛られ、身動きが取れないであろう状態のまま、なぜか壁を背に立ちあがって朝を見下ろしている。

 さきの物音は男たちが仕切りを蹴った音だったのか、呻いた声だったのか。ハバラを呼んだ方がいいだろうかと朝が躊躇っていると、朝の顔をまじまじと見ていた男はざらざらと荒れた音を出した。

「……お前、王族じゃねぇな」

 朝はなにを聞かれたのかわからなかった。なんと答えたらいいのかもわからないまま、呆然と男を見上げた時、男は力が抜けたように膝から倒れ込み、そのまま血を吐いた。

 そして真意はわからないまま、男は2度とその目を開かなかった。

 男が倒れた音で駆けつけたハバラに声をかけられるまで、朝はいったい自分が何を見ているのかもわからなかった。






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