夜は西に向かいながら
列車は闇を抜けてひた走る。内乱が起こった後の影響で、どの国でも鉄道の運営本数が減った半面、乗客は増えているという。だがそれは個室や寝台などがついていない車両で、国を逃れていく人々だ。
夜と昼が乗りこんだ車両は人が少ない。西への列車はユアン・ラングラー氏が手配してくれた。護衛もつけてくれるという大盤振る舞いだ。個室の料金が払える富裕層はいっそ動かない人が多いらしい。おそらく安全も買っているのだろう。
「私が行ければいいんだろうが、しばらく動けないものですからね」
姉妹が胡散臭いと感じる微笑みを浮かべながら、それでも親切にきちんと学園都市へと帰れるように手続きをしてくれたことには感謝しかない。
「お願いしたことに関しては、無理にとはいいませんからそれほどお気になさらずに。無事にお帰りになれるよう、祈っていますよ」
その言葉も嘘ではないに違いない。だが無理にとは言わないといっているお願いはきちんと果たした方がいいに決まっていた。
――雪が降る前に、昼は家に帰れるといいんだけれど。
テレグラムで一報さえ入れれば、ジャンジャックが村まで来てくれるという事には、ひたすら驚きしかなかったが、昼に見せてもらった手紙からも伝え聞く話からも、彼の愚直で真摯な人柄はよくわかる。納屋にはベッドが入るスペースもあるから、客室のベッドを移してしまえばお互いに安心だろう。
――後悔さえなければ、別に客室を使って貰っても構わないかもしれない。
だがそう考えると、窓ガラスに映っている闇を見つめる自分の眉間に皺が寄るのがわかり、夜は少し息を吐いて力を抜いた。
結婚する前に、などと言う気もないし、若いのにと言える年でもない。単に夜が知らない相手で不安だというだけだ。昼が構わないならそれでもいいと伝えておいた方がいいだろうか。
――言わなくても、必要ならそうするわね。
そこは3人ともよく似ている。傍らのベッドから聞こえる健やかな昼の寝息を聞きながら、夜は目を細めた。
――私がどうするかをちゃんと考えないと。
朝とも昼とも違う。明解な答えもきっとでない。いっそ危険があるかもしれない。けれど自分の中のなにかが、行ってみるべきだと訴えている。飛行機乗りに関係して3人がわかれて家を出たあの時とも違う。
――そういえば。
村の外れに落ちた飛行機。乗っていたと思しき男はもちろんあの飛行機乗りではなかったが、あれは誰だったのだろう。恩師のらばを奪われてしまった。あのらばはどうなっただろう。
そして三つ子が不在の時に訪れた飛行機乗り。果たして何をしに来たのだろう。会いに来たのではないことは間違いない。なら何をしに?
夜はますます目が冴えてしまい、眠れないまま、流れていく車窓の外の闇を見つめ続けた。