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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は東へと

 北の山脈の上には黒々とした雲が広がって見えるのに、裾野の国にはしばらく雨すら降っていない。だがこれから雪が厳しい季節になれば、港町で比較的降雪量の少ないこの町でも、広場での野営は無理が出てくる。

 朝は難民の手配に奔走するグラカエス達の手伝いをもうしばらく続けてから、ハバラと一緒に旅立つことに決めた。

 東にある国に縁戚がいるという商家の一行と同行させてもらえることになったので、彼らの準備などを待つにも具合が良かった。

「手紙はマメに送ってね」

 昼が不安を隠さずに言い、

「テレグラムって便利だけれど、村には無いからどこか近くにないか調べておくわね」

 夜はそう言った後、「それをどこに伝えればいいかが問題だわね」と首を捻った。

「この寺院宛で構わない。グラカエスが受け取ることができる」

 ハバラの言葉に夜は「良かった」と頷いた。

「なら、手紙はここにも送るようにするわ」

 言いながら朝は、鞄から絹糸の束を取り出し、夜に渡した。

「絹?」

「きれいな色ね」

「朝が糸にしたんだよ」

 フォン師が笑顔で口を挟む。

「え?」

 夜が目を見開き、

「でも絹って」

 昼がひるんだように夜の手の糸を見返した。

「うん、慣れるまではたいへんだったわ」

 朝は溜息を吐いた後、「それを何かに役立ててほしいの」と言った。

「私が持っているより良さそうだし」

 夜は手にした糸をよくよく見てから、「わかったわ」と頷いた。

「ワンソウ夫人が織り機を持っていたはずだから、織ってみてもいいかもしれない」

 夜の腕前を姉妹はよく知っているので、異議は無かったし、今度はフォン師も口を挟まなかった。

「……またしばらく離れ離れね」

 昼は揃って家に帰りたかった。もう冒険なんてしなくてもいいのではないかと思っている。

「もしかしたら、ずっと離れ離れかもしれないけれど、無事でいるとわかっていればいいわよね」

 それでも昼はそう続けた。こうして家から離れてみて初めて、三つ子は揃いでなくてもいいのだと気がつくことができた。不安も未来も、ひとりひとり別々なのだ。

「努力するわ」

 笑顔で朝が答えると、

「実行してね」

 と、夜が片方の眉を綺麗にあげながら姉に釘を刺した。



 

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