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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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グラカエスの心中、フォン師の溜息、門番の幸福

 用意した尼僧服に着替えた三つ子を見たグラカエスは、心中頭を抱えた。

――まったくわからん。

 似ていると本人から聞いていたが、それでも自ら様々な事を教えた朝はわかると思っていたのに、揃って礼を言って辞儀をされた時、それが浅はかな考えだったと気がついた。

 いや、じっくりと見ていればわかるのだ。いくら昨日、三つ子が「こんなに経っていたのね」と笑いながら互いの髪を切りそろえたとしても、「朝はちょっと痩せたかしら」とか、「昼のその手の傷はどうして?」とか、「夜はあちこちに手紙をたくさん書いてくれたの」とか、話の内容からは確実に察することができる。

 いや、その時はできている。「そうでもないわ。ちょっと重くなった気がする」と肩をすくめたのは朝で、「これはお世話になった教授のところの畑の脇の木の枝を揃えた時、お借りした鉈が使いにくくて」と危なっかしいことをのんびりと答えたのが昼で、「またすぐ先生にも出すから伝えたいことがあれば言ってちょうだい」と微笑んだ横顔が美しいのが夜だとわかる。

 だが動いてしまえばわからない。ずっと見続けているわけにも、話を聞いているわけにもいかない。

――いちいち確認するわけにもいかない。これは、なかなか苦労をしていただろう。

 グラカエスは三つ子の周囲の人々の心中も察し、溜息をついた。




「ああ、朝、その薬草を頼む」

「はい、どうぞ。私は昼です」

「それはすまなかった。目が悪くなっていけなくてね。ありがとう」

「どういたしまして。名前は気にしなくて大丈夫です。慣れていますから」

「そうもいかないだろう。ああ、芋を持ってきてくれたのか。ありがとう、朝」

「どういたしまして。私は夜です」

「おおや、それはすまなかった。えっと、では朝はどこかな」

「フォン師、この服も持っていかれてはどうでしょう」

「こんなに持っていけないよ。でもありがとう」

「どういたしまして」

 にっこりと笑う三つ子の顔を見ながら、フォン師は心中で溜息をついた。




 寺院の裏門の門番は、挨拶を受けても返事はせずに笑って返すことしかできないが、見分けはつかなくても、きれいな姉妹だと思っているだけでなんだか幸福だった。



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