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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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夜は町を出る

「明日ですかあ。早いですねえ」

 なぜだか今日も食事を一緒にしている宿の受付の娘は、夜が明日の早くに町を出ると聞くと、つくづく残念そうな声をあげた。

「もっとゆっくりしていけばいいのに。明後日は私、1日休みだから、いろんなとこに案内できますよ。もうお城とバラ園は見たんでしたっけ。じゃあ、隣町の動物園はどうでしょう」

「残念だけど、それほどゆっくりできないから」

 夜の言葉はいつでももっともらしく聞こえるからか、娘は「それなら仕方がないか」と、無理強いはしなかった。夜は檻の中にいる動物を見るのは嫌いだ。

「じゃあ、今度来た時に行きましょうよ。また来てくれるんでしょう? ね、待ってますから」

「そうね。そうしましょうか」

 そんな約束が守られるかどうか怪しいところだが、夜の言葉は娘を慰めるには充分だったようだ。

「きっとここに泊まってくださいね。またご飯食べましょう。ね、奥さん、それがいいですよねぇ」

 娘は果物を運んできた宿の女主人にも同意を求めた。

「そうだよ、その時はうちの娘にも子供を連れてこさせるからさ。会いたいって言ってたんだよ。きれいな娘さんが泊まっているって話をしたら、顔だけでも見たいなんて言ってさ。臨月だから止めたんだけどさ、えらく残念がってね。この次には赤ん坊が見られるから、またおいで」

 女主人は娘とふたり、何度も何度もまた来るようにと念を押した。たった2泊の付き合いだが、夜をいたく気に入ったらしい。

 夜は昔から子供や年上の人に好かれた。あと動物にも。ちょうどいい年頃の男性に好かれた覚えは無く、そのことは三つ子に共通している。だがそれは気がつかなかっただけなのかもしれないが。

「ええ、その時はよろしくお願いします」

「勿論だよ。他には行きなさんな。早く戻っておいで」

 女主人は同じテーブルに腰掛け、ぽんぽんっと嬉しそうに夜の腕を叩き、「さ、これもおいしいよ」と、丸くて赤い果物を差し出した。


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