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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼の気持ち、夜の気持ち

――もう収穫はほぼ終えたはずね。

 昼は移り行く車窓の風景を見ながら、自分たちの畑のことを考えた。そもそも家を出る時に、収穫やその後の手配は整えてきている。いつも手伝いを頼んでいる村の農家の初老の男性と、販売を手伝ってくれる問屋の中年の女性は、両親が生きていた頃からの付き合いがあるから、三つ子の畑についてはそれなりに詳しい。信頼がおけるから、今回は収穫から販売まですべて任せてきてしまった。数日なら他に任せられる人もいるのだが、長い間のこととなるとどうしても気がひけてしまう。ふたりなら時間の融通が利くのでそれほど気をもむこともない。

――売上からどれだけお渡しすればいいだろう。

 遠くに広がっているのは収穫を終えた小麦畑だろう。乾燥させるための藁があちこちに積みあがっている。この辺りはじきに雪が降る季節になる。それまでにあれらはすべて収納しなければいけないから、どこかにその建物もあるはずなのだが、昼には見つけられなかった。

――朝はどこにいるのかな。

 こんなに長く離れて暮らしたことなどない。それに朝はひとりきりなのだ。昼は食事用のテーブルの上で手紙を書いている夜を見た。昼はそれほど書けることが無かったけれど、夜は丁寧にそれこそ教授が「論文を書くと思って沢山書いてくれ」と言っていたように書いているのだろう。夜は几帳面だ。それと恩師にも言づけて貰うことがあると言っていたから、その手紙もあるのかもしれない。

――そうだ。言づけを頼まないと。

 まだ帰れそうにない。畑の他にしてもらいたいこともある。昼は窓から離れ、夜の前に座ると新しい紙を貰った。

――お礼は多めにお渡ししないといけないわ。



――本当にわからないのね。

 夜は手紙を書いているペンを置いて、お茶を飲んだ。夜と昼は手紙を書いている最中に2度ほどユアン・ラングラーに、何回か秘書と護衛に話しかけられたが、都度、間違えられた。もう誰がどう間違えたのかも忘れてしまうぐらいだ。

 その様子を見て、誰もがふたりの区別がついていないということを理解した。

――それにしてもこんな狭い中にいるのに。

 広々としていても、寝る時以外は常に顔を見合わせているのはたったひとつの車室なのだ。護衛まで見分けがつかないのはいかがなものだろうかと、夜は考える。

――護衛としての腕、なんて私にはわからないけれど。

 武術の腕があるのは確かなのだろう。体格はがっしりとたくましく、強面なのでいるだけで護衛役は務まるのかもしれない。

 見分けられないことはいつものことなので、それ以上考えることをせずに、夜はお茶を飲み干してまたペンを持った。

――朝はどこにいるのかしら。

 夜は「言伝ても頼むことにしたわ」とテーブルに戻ってきた昼を見ながら考えた。

――悪いことが起きてはいないと思うけれど。

 夜はその自分の感じを信じているし、恐らく昼も同じだろう。心配はしているが、極度の不安はない。朝もきっとそうだ。

――私と昼が一緒にいると思っているでしょうね。

 思っているというより、知っているという感じだが。

――ひとり、ってことも無いかもしれない。

 夜は、姉が人に恵まれる性質があることもよく知っている。もっともそれは三つ子の誰もが似たようなものだ。夜は自分のことに関しては少々鈍い。

――それでもこれだけ長く離れていると、やっぱり会いたくなるわね。

 溜息をひとつ落としてから、夜は手紙の続きを始めた。





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