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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼と夜は再び列車で向かう

「僕は別に旅慣れているわけではないので」

 ユアン・ラングラーはふたこと目にはそう言って笑う。そして必ず昼と夜を間違える。

「私たちも別に旅慣れてはいません」

 昼が戸惑ったように答える。

「夜さんはそれでもいくつかの国に行かれたのでしょう。僕は自分の国以外はひとつしか知りません。もっともそれでも請われてこうして仕事があるわけですが。ああ、それはまだ持っていていい」

 昼の言葉に、ユアン・ラングラーはにこやかにそう答え、秘書に仕事の書類を戻す。そして夜に向かって、「昼さんは僕の国に行ったことがあるだけなんですよね」と問いかける。

 彼は旅慣れてはいないが、確かに有能ではあるのだろうし、請われるほどの実力もあるのだろう。昼と夜と共に国を出る支度を3日で済ませたが、仕事は引き継ぎまで含めて抱えて移動することになってしまい、付き添い3人、護衛が4人、秘書がひとりと、大層な人数を連れてきている。もっとも付き添いと護衛は途中町で仕事を持って国に戻る手筈で、最終的には護衛と秘書が残るだけだという。

 それだけ有能と言われる人が、一緒に過ごしている昼と夜の区別がつかないということが、どうにも夜には理解しがたい。

 だからこれはわざとではないのかと思ってしまう。

「私は夜です」

「ああ、これはまた失礼を」

 それが謝罪というより、悔しさが少々滲みでてしまうので、本当にわからないのだとも思える。

「美しさに目が眩んで見分けがつかないのかもしれません」

 真顔で言っているが、それは言葉面からも本気とは思えない。昼も夜も同じように溜息をつく。

「ほら、そうしている首の角度までまったく同じではないですか。これを次の便に」

 付き添いのひとりが書類を鞄にしまう。列車の個室はかなり広い。夜が初めに旅した時の6人乗りの個室でもゆったりと過ごせたが、ここはソファの数は同じ6人が座れるようにはなっていても、その他に執務用の机とローテーブルと食事用のテーブルがある。食事用テーブルには4脚の椅子がついているので、10人は入れることになっている。護衛はひとりは必ず立っているので椅子の数は足りるし、常に一緒の部屋にいるのは秘書以外はひとりずつなので、十分ではある。減っていくことでもあるし。

 昼と夜が並んで座っていても、最初に確認しなければ間違える。付き添いも護衛も秘書も同様で、この数日で彼らはもう見分けることを諦めてしまったようにも見える。

「さて、次の駅で彼らは降ります。なにか教授たちに伝言があれば承りますが」

 昼と夜は顔を見合わせてから、「では手紙を書きますのでお願いします」と昼が言う。

 ユアン・ラングラーは一瞬の間を置いてから、「おふたりとも、でよろしいですね」と、名前を言うのを避けた。

 夜はやっぱりなんとなく怪しいと思いながら、秘書に差し出された紙を受け取った。





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