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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は手伝いをする

「お前たちは目立ちすぎるからな」

 グラカエスは苦笑しながらそう言った。難民はどんどん増えているが、どこから来たのかわからない者も多い。目立ちすぎるふたりは何かに巻き込まれないとも限らない。もともと初めてここに来た時も、何かに巻き込まれそうになって来た事でもある。

 そこで朝は寺院の畑回りと賄いを、寺院に慣れているハバラは内々の事務管理の手伝いに回された。つまりそこで働いていた人々が難民の支援に駆り出されているというわけだ。

「もう少し、日射しを避けたいわね」

 作物には案外日陰を好むものも多い。

「風通しは十分ね」

 かなりの重要事項である。

「水は。……最近雨が少ないけど用水がきちんとしているし、これなら慌てる必要はないわね。様子見かな」

 三つ子はそれなりに広い畑をいくつも抱え、それを3人で整えている。その経験から言えば、寺院の畑は広いが手に負えないほどではないし、作物はどれも朝には身近なものばかりだ。

「さて、今日の収穫分はこれでよし」

 採れたものは炊き出し用といくつもの炊事場別にわける。

「20人だとこんなものか」

 寺院に住んでいる僧侶は多いのだが、多過ぎて炊事場はひとつではない。合わせて5つあり、朝が手伝うのは1番小さい、そして自分たちの食事を作る場所だ。

「ああ、ありがとうございます。助かります」

 この炊事場は普段はふたりで切り盛りしているそうだが、そのうちのひとりは難民の炊き出しの手伝いに行ってしまい、いまは年配の尼僧がひとりである。

「修行とはいえ、老いた身で畑まで行くのはなかなか難儀でして」

 そう言いながら、大きな笊を軽々と抱える。これは手伝いを始めてから毎回言われることだ。

「じゃあ、これとこれとこれ。洗って同じぐらいに切ってください。昨日採ったあの笊のも一緒に」

 尼僧の指示は簡潔でわかりやすいのだが、合間のおしゃべりが長い。尼僧の修行としては無言も必要なはずなのだが、どうもこの炊事場はそこらあたりが緩いようだ。もっともこの尼僧が婚家の仕事が一段落し、時間がありあまったので出家したという変わり種のせいかもしれない。朝はこの数日ですっかり寺院の人間関係に詳しくなってしまった。

「グラカエス様はほんとうに良い方。誰にでもたいへん親切で。難民の人たちの事も、院長様は難色を示されていましたけど、そこはお立場もありますから非難してはいけませんよ。それをグラカエス様が。あ、次にあちらの笊の分を炒めてから冷ましてください。あとで酢漬けにしますので。持ちが良くなります」

 院長が難色を示していたと聞いて、朝が首を傾げている時にも、返事など待つこともなく次から次へと手順を示される。20人分の食事をふたりで作るのだから手際は大事だ。

「そうそう、たいへんよろしいです。メイカ・エリ様は本当になんでもお上手ですね」

 尼僧のおしゃべりで気分が悪くならないのは、基本的に褒めることしか言わないからだろう。朝は未だに慣れない偽名に内心狼狽えながら、「ありがとうございます」と返事をした。

 そうしてここに来て何度目かの食事を作り終えた時に、裏門の門番をしている僧侶が遠慮がちに声をかけてきた。

「お客様にお客様がいらしています」

 朝はその言葉を理解するのには、少しだけ時間がかかった。





 

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