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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼と夜は旅を決める

「とくべつ楽しい話ではないんだけどね」

 言いながらも、ユアン・ラングラーは変わらずにこやかな顔のままだ。

「僕もこの国からそろそろ出た方がいいかなと思っていたところなんだ。いや、特にここが巻き込まれるとかではないから安心してください」

 最後のひと言はワンソウ夫人に向けられていて、夫人は「それならようございました」と胸を撫でおろした。

「孫はまだ小さいですからね」

「ならなぜ出ていく」

 リ・シャンイー教授がいらいらと膝を叩きながら先を促す。そんな態度など気にもとめずに、ユアン・ラングラーはにこにこと微笑みながら話を続ける。

「僕がこの国に来たのはそれこそ台下との関係があってのことでね。悪いけれど、その詳しい事情は話せない。そのためかれこれ7年ほどこの国にいる」

――7年もいて、簡単に出ていかれるものかしら。

 昼にはそれは長く感じられた。

――7年しかいなくて、これほど仕事を任されるものかしら。

 夜には「機密性の高い」仕事をこなすには少し短く感じられた。

「本来の仕事はまだ途中だけど、内乱の火花が思っていた以上に広まりつつあるから。ええっと、あなたたちもそういった話をしていると思っていいのかな」

 ユアン・ラングラーは改めて部屋の中の人々の顔を見回した。途端に、ワンソウ夫人がそわそわしだして、「私はこれで」と席を立ってしまった。

 ワンソウ夫人が部屋を出た後、ユウノ・エンゲは新しくお茶を入れて回った。

「それで、ちょうどいいからふたりを利用してこの国を出ていくってことでいいのかな?」

 ユウノ・エンゲがカップを差し出しながら聞けば、ユアン・ラングラーは「人聞きが悪いなあ」と笑顔で受け取る。

「でもそういうことなんでしょう?」

 カナイ・エンイ博士は溜息と一緒に尋ねる。

「僕と一緒の方がむしろ安全ですよ」

 リ・シャンイー教授が珍しく、ぐっと言葉に詰まって言い淀んだ。

「僕は自分の国に関係する仕事でここに来ているけれど、内乱の行方が気になってもいる。最近、看過できないと思う情報を耳にして、とりあえず砂漠の東側に行ける機会があればと思っていたんだけれど、ここから手を引き難くてね」

「そういったことまでは話して大丈夫なんですか?」

 夜とすれば、それも十分聞いてはいけない事のように思える。昼を含めた他の人の頭も縦に振られている。

「隠れて出ていくわけじゃないからね。それに言いふらすような人には言わないよ。僕は人を見る目もあるんだ」

 躊躇いもなく言われた言葉に、誰も返事はできなかったが、昼と夜がユアン・ラングラーとの旅を決断したのは、その躊躇いのなさのお陰かもしれなかった。




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