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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼と夜は眉根を寄せる

「初めまして。ユアン・ラングラーと申します。ええっと、お話というのはお姉さまが内乱に巻き込まれているかもしれないので近隣国の状況が知りたいということと、もうひとつは、境目、ですか。ふむ。これはなんというか」

 かなり背の高い男性は昼と夜の正面の席に座ると、手元の書類挟みの中を確認した後、眼鏡をかけ直してからふたりの顔を改めて見つめて微笑んだ。

――確かに。

――なるほど。

 昼も夜も、名前を聞いた時に「男前」と言われた意味を理解した。

 ユアン・ラングラーは川を下った南の国、昼がジャンジャックと出会ったあの国から赴任してきていると紹介を受けている。昼はそれを聞いた時に、ジャンジャックの事を久しぶりに思い出した。

――似ている。顔っていうより、雰囲気っていうか。

 背が高く、手足が長く、少し長めの黒髪に一重の黒い瞳。

――笑顔かも。

 何を言わずにいてもきっと明るい人なのだろうと思う笑顔だ。ただ、ジャンジャックより切れ長な瞳は底抜けに明るいとか、素直とかと単純に決めつけ難い感じがする。昼のそういう肌感覚はあてになる。

――眼鏡って、こういうものかしら。

 夜は少し首を傾げて目の前の男性を見つめてしまった。

 ユアン・ラングラーのかけている眼鏡はフレームと言われる、レンズを支え、尚且つ耳にかけるように曲げられた枠がとても細い。レンズもかなり薄く、ぱっと見るとかけているとはわからない。そのせいか、眼鏡をかけている人は大概目元が分りにくいという印象があったのだが、ラングラーの目元はその切れ長の一重の中の真っ黒な瞳が、部屋に入った時にふたりを見比べて驚きと戸惑いに見開かれたのまでよくわかった。

 戸惑われるのは慣れているので、促されるまま、夜はとにかく話を進めることにした。

「はい。どちらに相談したらよいのかわからず、村の寺院より紹介されて学園都市へ赴きました」

「そこから台下へと。台下にはお会いできなかったということですね」

「はい。お約束は確かにいただいたのですが」

 そこでラングラーの微笑みは苦笑に変わった。

「最近の台下は大変忙しくていらっしゃるので。まあ、そうですね。そちらのお話はだいたいお聞きしておりますので、まずは最近の政情などで私がお伝えできる範囲のことからお伝えしましょうか」

 そして彼は自ら大きめの地図をテーブルに広げた。

「内乱が起きた国はどこかはご存じでしょうか」

 昼と夜の指が同時に、自国から砂漠をまたいだ、地図上で右半分のさらに半分ほどにある場所を示した。

「ええ、そうですね。よくご存じですね。では、この国へ内乱の影響が出るにはやや遠いところにあるとは思いませんか? ええと、お姉さまはどちらの国へ行かれていたのでしたっけ」

 昼が夜を見た。

 夜は地図の上の指をそこから少し北西の国へと動かした。

「手紙はおそらくこの国から出されたのでは、と考えています」

「……ほうほう」

 ラングラーの顔が地図から姉妹へと戻った後、「なるほど。それはご不安でしょう」と言った。

「私があなた方にお伝えできることはかなり限られています。この市長秘書室という場はたいへん機密性が強いものですから、そこはご考慮いただきたい。ですが」

 そこでラングラーは眼鏡を外した。夜が思っていたとおり、かけている時とさほど目元の印象が変わらない。それほど目が悪いわけではないのかもしれない。レンズが歪みをもたらすことは、夜はよく知っていた。

「僕が個人的に、つまりこの国とは関係なく聞きたいことを教えて貰えれば、もちろん精度は問わない、間違っていてもかまわない。そういったことを教えてくれるなら、僕が教えてあげられることは案外あるかもしれないな」

 昼はまた夜を見た。

 夜は同じように眉根を寄せて姉を見返しながら、微笑みがさっきよりよほど嘘くさく見える人物をどう捉えたらいいものかと考えた。


 




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