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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は北へ向かい、昼と夜は人を待つ

 どちらにしても、森を横切るわけにも、砂漠を行くわけにもいかない。

 ハバラの言うように西から東へ回るとしても、ひとまず海岸線を北へ戻る方向へ行くしかないのだ。

「飛行船は大丈夫でしょうか」

「隠した場所さえわかってりゃ、取りに戻れるさ。それよりどこまで行くかい」

 ハバラはヒナダではなく、朝を振り返った。

「グラカエスの寺院まで戻ろうと思う」

「……またお会いできるのは嬉しいわ」

「そういう話ではないが、まあ、そうか。嬉しいと聞けば喜ぶだろう」

 ヒナダはふたりの会話に少し首を捻ったが、なにも言わずに荷物を背負った。

「決まったなら、さっさと行こうぜ」

 ハバラは目を瞬かせてから、「ああ」と応え、ヒナダに礼を言った。

「付き合わせて済まないが、助かる」

「どっちにしろ、俺はその寺院近くまでだな。お前らが行き倒れても気分悪いし、あれを回収できるぐらい稼いでから戻ってやらないと目ざめも悪いしな」

「手前の港町なら日雇いも多い」

 朝はふたりの会話を聞き、改めて頭を下げた。

「ありがとうございます」

 なんと言っていいかわからず、他に付けたしたくともできなかったが、ヒナダは「よせよ、こそばゆいな」と肩をすくめ、ハバラが何を今更と顔を顰めたので、とりあえず、今はそれ以上は必要ないのだと、朝は自分に納得させて歩き出した。





「帰りたい、気がするの」

「そうね、思いのほか長くなってしまったわね」

 昼も夜も揃ってため息を吐いた。

 ふたりとも勇んで村を出て首都へと来たわけではあるが、これほど家を離れることになると予想していたわけではなかった。この世界の憂いの中で、朝のことに安心できる材料が見つかれば嬉しい、ふたりに関わる人々や村の生活に必要なことがわかれば僥倖、そのぐらいのことだったのだ。

 なんとか辿り着いた学園都市で、初めこそは戸惑ったものの、親切な教授たちに助けられて今ではすっかり家事までまかされている。ワンソウ夫人は久し振りの長期休暇が取れると、孫たちを引き連れて近場の行楽地へ旅行に出てしまったほどだ。

 だがその後が長い。とにかく待ってばかりな気がする。どちらに行くにしても標がなく、誰の言葉が正しいかもわからない。

――間違っているわけでもないし。

 昼はお互いの共通認識のズレに戸惑っても、どちらが悪いというわけではないので直しようがないのに参っていた。見ている地図がすべて違う方向を指しているようだ。

――悪気があるわけでないのはわかるのだけれど。

 夜は人から話を聞くこと自体に疲れていた。話を聞き流すのが得意と言っても、どれが有用かわからないままでは取捨選択ができない。基準をどこに持っていいのかわからないままなので、どれも捨てることができずに溜まっていく。

「……ラングラーさんからお話を伺ったら、1度帰りましょうか?」

 夜の言葉に、昼は思い切り首を縦に振った。

「そうしたいわ」

「そうね、そうしましょう。まず、これから話を伺ってからね」

 ふたりは通された広い客間のテーブルの端に寄り添うように座り、出された茶にも手をつけないまま、両開きの扉が開かれるのを待った。

 


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