表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
16/247

昼はまた川を行く

「どこまで行くの」

「あ、あの」

 昼はなんとか、ここから3番目の船着場の名前を口にした。

「遠いよ。着くのはずいぶん遅くなるね。暗くならないうちに着くかどうか。こんな時間だからね」

 発券場のおばさんは、脅かすような口ぶりで放り出すように切符を差しだした。

「そ、そうですか」

 おばさんの手荒な仕草にびくっと体を震わせ、それをなんだか恥ずかしく感じて、昼はそそくさと待合場の木の椅子に腰掛けた。

 昨日降り立ったのは降船専用の場所だったせいか、これほど広くなかった。発券場のおばさんは暇を持て余しているのか、大きな体で前へ後ろへと揺り椅子を忙しなく動かしながら、小窓越しにちらちらと昼の方を見ている。昼はなるべくなんでもない風を装って、乗船する場所により近い椅子に移った。ここからなら、おばさんを見ることも見られることも無い。けれど窓口にはぽつぽつと人が集まりだしていたので、移らなくても見られる事は無くなっていたかもしれない。

 風は弱く、暖かい。青空のところどころに浮いている雲は、のんびりと川上に向かって動いている。川の波も穏やかで、乗船場で船や人の誘導をしている青年が昼を見て、「遠くまで行くの? 今日はあんまり揺れないよ」と笑って言ってくれた。さっきのおばさんの言葉が聞こえていたのかもしれない。昼は「よかった」と返しただけで、話を続けなかった。青年が続けたかったとしても、船が川岸に近づいてきていたので続かなかっただろう。

 到着した船は大きくて、出発を待つ間に、乗り込んでくる人がどんどん増えていった。昼は右舷にくっつくように設けられた席に座った。ちょうど船の長さの半分くらいの場所だ。帆布の屋根の影が川面にまで伸びている。左隣には初老と見える夫婦が座った。そうこうしているうちに船はほぼ満席になり、青年の言っていたとおり、揺れを感じることもなく、するりと川へ繰り出した。

 確かにずいぶん遅くなってしまった。おばあさんの庭が離れがたくて、ついつい長居をしたせいだ。昨日はいかつい男性が多かった船内は、今日は連れのいる人が多い。ひとりで乗っている人は数人で、ほとんどの人は誰かと一緒のようだ。昨日乗った船とは種類が違うのかもしれない。椅子なども座面が柔らかくて、長く乗っても大丈夫なようにか、背もたれが少し斜めに付いている。

 昼は体が楽になるように座り直すと、川面を見つめた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ