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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼と夜はお菓子を食べる

 約束を反故にされたと言うと、リ・シャンイー教授は「やっぱり付いていけば。教授会なんぞ行ってたからっ」と、半ば喚きながら、ふたりに謝ってくれた。

 話を聞きつけたユウノ・エンゲは「僕が行った方が早いかもしれない。この式さえ解ければ、待っててね」とだけ言いに来た。後々、彼が式を考えている時にまったく違うことを考えるのはおよそ物心ついてから初めてだと言われて驚いたほどだ。

 リ・シャンイー教授が早々に次の面会を申し込んだすぐ後には、カナイ・エンイ博士がやってきて、「私も面会要請出しておいたから」と、少し吊り上がった目をさらに尖らせながら言い放った。

 こうして断られた後の1週間のうちに、3回の面談を次々に申し込んだが、これはすべて約束まで行かずに断られた。「忙しく予定が詰まっている」と、判を押した例文がきれいな筆記体で書かれた紙が1枚届けられるだけという始末で、3回目の返事に至っては、届けた日のうちに返事が来た。もう照会も無いようである。

「これは、やり方を変えた方がいいかもしれないわね」

 3枚目の返事が来た翌日、カナイ・エンイ博士は仕事を終えた足で昼と夜のもとに来ると、いらいらと応接間の窓の前を往ったり来たりと歩きまわる。

 無事にひとつの式を解明して論文をものにしたというユウノ・エンゲは大きく頷くと、「とりあえず、落ち着いたらどうなの」と入れたてのお茶をテーブルに並べ、リ・シャンイー教授は「ここは私の家だっ」と1番にお茶に手を伸ばした。

「では、私は先に失礼いたしますね」

 ワンソウ夫人は昼と夜の腕前に満足しているせいか、最近は遠慮もなく早く帰宅してしまう。今日も客人ふたりの博士が持参した土産の菓子をたくさん持って、ほくほく顔で帰っていった。

「とっても美味しそう」

「これ、レモンの香りがするわ」

 昼と夜が嬉々として並べた焼き菓子の皿からひとつ摘みあげ、ユウノ・エンゲはにこりと笑った。

「お薦めだよ」

「おまえ、先に手をつけるな」

「あ、これは私が持ってきたの。最近、ちょっと有名なのよ」

「博士、あなたも、もうちょっと遠慮と言うものをだな」

 リ・シャンイー教授はそう言いながら、慌てたように手を伸ばし、「うん、旨い」と頷いた。

「で、どう変えるの?」

 ユウノ・エンゲはすでに新しいお茶を入れている。

「台下に会うより、側近に近づいた方がいいかもってことよ」

 カナイ・エンイ博士の言葉に、揃って焼き菓子に手を伸ばした昼と夜は、揃って首を傾げた。

「側近?」

「そう。回りから攻めた方が上手くいくかもしれないってこと」

「なんかそんな諺、聞いたことがあるなぁ、僕」

「東方にある諺だな。そうか、側近と言わなくても近しいものから話を聞くことはできるかもしれんな。それに台下本人に会わなくても聞けることはあるかもしれんし」

「そうそう。台下に会うことが本題ではないわけだから」

「それはそうかぁ」

 昼と夜が何を言わなくても話はどんどん進んでいくので、ふたりはお茶を飲みながら、ひとまず美味しいお菓子を堪能した。






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