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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼と夜は腰を据える

「目が見えるからと言って、同じものを同じように見ているとは限らない」

 カナン・エンイ博士はそう言って肩をすくめた。

「でも残念ながらその検証は私の分野ではないの。遺伝的特質は全然畑違いだから。それにそのあたりの研究は統計を取るのが大変で。フィールドワークも規模が違うからなかなか進まないようだし」

 博士はそう広くも無い応接室を歩き回りながら、うんうん唸った後、最終的には両手を挙げた。

「今すぐにそっち方面からアプローチをするのは無理ね。適任者がこの都市にはいないの。昨今の情勢不安で、こんな世俗から遠いと思われるようなところにも影響が出ていてね」

「そうそう、だから僕もこうして人助けもできるってことだけどね」

 ユウノ・エンゲが論文を発表している機関紙が発行停止してしまったという。普段、歩いている時は頭の中が異様に回転していることが多く、親とすれ違っても気がつかないぐらいなのに、発表が頓挫すること続きで気持ちがくさくさしていたせいか、見慣れない姉妹に目が留まったという。

「僕は歩きながら考える質だからさ。こういうことは滅多にないんだ」

「滅多にないわりには、他人に馴れているんじゃないのか」

 他人の家の応接室で、いまでは自ら茶を入れているユウノ・エンゲに、屋敷の主人のリ・シャンイー教授は、入れてもらった茶を睨みながらぶつぶつと不満を述べる。

「美味しいでしょう。僕は茶を入れるのが上手いんだ」

「なんの自慢だ」

 だが教授はすでに4杯目の茶を飲み干している。

「なんにせよ、情報を得るにも調べるにも時間がかかる」

 教授は5杯目の茶の入ったカップを受け取りながら続けた。

「君たちはしばらくここにいればいい。部屋ならあるし、手伝いもいるから困ることはないだろう」

「教授が危険人物でないことは私が保証するわ」

「彼女が危険人物でないことは僕が保証するよ」

「お前が危険人物かもしれないがな」

 3人の人柄を保証できるものはないが、昼と夜は恩師を信用している。ふたりは「よろしくお願いします」と頭を下げた。

 こうして昼と夜は、自分たちが思っているよりも長く家を離れることになる。




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