昼と夜は首を傾げる
学者という職種の人々は皆こういう傾向にあるかどうかはわからない。だが目の前のふたりの自己主張の強さや子供のような屁理屈の言い合いを見ている限り、勉学を収めることに必要なものは意志の強さだと思われる。それもかなり頑丈な。
だがそれでもふたりは、博士と呼ばれたがらない数理物理学者のユウノ・エンゲと、やはり博士はいらないと言い張る地政学教授のリ・シャンイーは、話を聞いてくれる。頑迷なようでいて話を聞く耳を持つというのは、人としても大事な資質だろう。
「つまりは近頃騒がしい現況を理解するための情報と、この国の成り立ち、特に境界について知りたいってことだよね」
ユウノ・エンゲがさっくりと纏め、「簡単にいいよる」とリ・シャンイーが顔を顰める。
「確かに、僕の得意いエリアじゃないなぁ」
「当たり前だ。この子らは私を尋ねて来たんだ。お前はさっさと帰れ」
リ・シャンイーが何度同じことを言っても、ユウノ・エンゲは「僕は恩人だよ」とお茶を飲んでいる。
「おい、これはなんだ?」
ぶつくさと文句を言うわりには本気で追い出す気は無いらしいリ・シャンイーは、封筒からひとかけの石を取り出し、昼と夜へと差し出す。
「……岩?」
ユウノ・エンゲが目で追うそれを、夜が受け止めた。
「岩、ですね。あ、これは」
「わかるの?」
「北の山の欠片だと思うわ。青いもの」
「あ、本当。青いわね」
昼が頷き、夜は「でもこれが?」と首を傾げた時、ユウノ・エンゲとリ・シャンイーの声が重なった。
「青い?」
不思議そうにこちらを見るふたりを、姉妹はやはり不思議そうに見返した。