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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼と夜は助けられる

 背丈は昼や夜と同じくらい。髪は真っ白で肌は褐色。長い髪はふたつの三つ編みにして、それをぐるりと頭に巻いている。瞳は青くて眦が少し垂れている。唇は薄く、いまは片側を皮肉に持ち上げてふたりを見つめている。細くて愛嬌のある顔立ちから女性にも見えるが、なぜかはだけているシャツから見える胸がぺたんと平らであるから、性別としては男性なのだろう。

――男性と決めつけてもいけないかもしれないけれど、まあ、そもそも。

 性別より、助けてくれるかどうかが大事だろう。

「よくいるんだ、ここ。迷いやすいんだよね」

 声は外見に似合わず低い。

「そうなんですね。あ、あの、会いたい方がいるのですが」

 いままで会ったことのないタイプの人物に警戒した昼が、夜をかばって前に出て尋ねた。

「なんの専攻している人?」

 だが名前でも住所でもなく、専攻する学問から聞かれるとは思わなかった昼は、虚を突かれたように夜を見た。夜は姉に軽く頷いてから、「地政学と伺っています」と答えた。地政学という言葉自体、恩師から教えて貰うまでは夜にも昼にも馴染みのない言葉だったが、この何か月かで妙に近しいものになっている。

「地政学か、じゃあこっち」

 無造作に手を振って先を行こうとするその人に、夜は「あ、あの」と続ける。

「教えていただければ私たちだけで」

「無理無理、それでうまくいってなくて困ってたんでしょ?」

 その通りだ。

「僕が怪しいのかもしれないけど、ここは信じてついてきて。あ、名前はユウノ・エンゲ。博士はいらないから。ま、そこらの人に聞いてもらっても僕の保証はしてくれると思うけど」

 笑いながら彼は、ユウノ・エンゲは辺りを示すように腕をくるりと回した。

「このとおり、人通りは無いんだけどさ。なんたって、みんな学問バカだから」

「学問バカ?」

「そう。表通りに出る暇なんかないんだ。籠って研究か、現場で実地活動か。玄関まで出て来てくれるのは9割がお手伝いさん。言葉が通じない時もあるけど、そうじゃなくても用があるところ以外は行かないから、道を聞いてもわからないでしょ」

 それを聞いて、夜はここまで道を尋ねては返ってきた言葉に翻弄された意味を理解した。誰もが教えるほど詳しくなかったのだ。

「家族はいないか、同じ学者か、別の家にいるか。そんな人しかここには住まないんだ。学問以外のことでは不便極まりないからね」

 つい、夜は疑問に思ったことを口にした。

「あなたは、ユウノ・エンゲさんはなんの学問をされているのですか?」

 ユウノ・エンゲはにこりと笑った。

「僕は数理物理学」

 昼と夜は顔を見合わせてから、それ以上は聞くことを止めた。





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