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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は巻き込まれている

「悪かったな」

 肩をかばいながら入ってきたヒナダは、開口一番ふたりに謝った。

「ここでいいか」

 ハバラが手を貸し座らせると、ヒナダは朝にもう1度謝った。

「悪かった、巻き込んじまって。あんたにゃ災難だったな」

「いえ、あの」

 朝は自分がハバラを巻き込んでいるという自覚はあったし、ハバラは最初はともかく今の状況には朝を巻き込んでいるという気持ちがある。巻き込むという点では、どっちも覚えがあるということだ。

「肩。いや、腕か」

「ああ、切られるところを避けたら、斧の柄で殴られた」

「斧?」

「チャレット族か?」

 朝とハバラの声が重なり、ヒナダは両方に向けて「ああ、そうそう」と答えた。

「鉱脈荒らしだな。いまごろのされてんだろうけど、俺はあんまり目立ちたくねぇから、適当に逃げてきたんだ。しばらくしたら戻らねぇといけねぇが。怪しまれちまうからよ」

「とりあえず腕を」

「いや、手当はいい。あ、でも冷やしとかねぇと仕事になんねぇな。川で冷やしていたことにするか。そこの裏手に水が湧いてんだけど」

「汲んできます」

 朝は桶を借り、用心しいしい水を汲んだ。ヒナダの言ったとおり、小屋のすぐ裏に岩をえぐって水が湧いている。水が手に入りやすいからここを選んだのかもしれない。

 戻るとハバラが手拭いを絞って腕を冷やした。くっきりと色が変わっているが、動かせるようではある。

「助かった。しばらくしたら俺が先に戻るから、あんたたちは後から戻ればいい。なに、騒ぎが怖くて逃げてたっていやいいから」

 この町は小さすぎるし、他の町へ行く手立ては船しかない。森をこれ以上いけばそれこそ戻ってこられなくなるだろう。町に戻るなら言い訳が必要だ。

「それにしたって、船で奴らを見てないぞ」

「商人の付き人だったようだぞ。なんだかでっぷりしたのがいたろう。あれのツレだ」

「……そうか。下層に入ってた荷物持ちか」

 途中の町から乗ってきた商人の一行は、いつも気分が悪いと船尾近くで船乗りの介抱を受けていた。朝は商人の使用人も揃ってえづいていたのは知っていたが、荷物持ちが別にいたとは知らなかった。

「船倉にいたということ?」

「ああ。だが俺が見たふたりは、チャレット族のようではなかったが」

「樽だろう。いくつも積んだんじゃねぇか、食料とかに紛れてよ。あいつら小柄だからさ、こう縮こまってりゃ見つからねぇし、袖の下でも握らせときゃ船長も何も言わねぇだろう」

「……まあ、そうだが」

 この情勢だから金はいくらあっても多いことはない。だがこの情勢で危ない人間を運ぶのは難が大きい。どちらを選ぶかという問題だが、恐らく断れない弱みでもあったのだろうとハバラは考えた。後ろ暗いところなど、誰もが抱えているものだ。

「どっちにしろ、もう捕まってんだろう。それにしても雑な仕事だなぁ」

 ヒナダは桶から水を汲んで飲み干した。

「そうだな、ここで騒ぎを起こしても」

 ハバラが言葉を止めた。ヒナダはハバラを見て真顔になった。

「このところは仕切りが上手くいってるから。……そうか、別の理由があるってことか」

「……誰かが探りを入れてきているのかもしれない」

「……ちっ、しょうがねぇな」

 ヒナダは部屋に置いてあった鞄を「おい、背負わせろ」とハバラに突き出した。

 ハバラは黙って言われたとおりにヒナダの背に鞄を落ち着かせると、「食べ物はどこだ」と問いかける。

「そっちの袋のをふたりで持ってくれ。あとはその小袋を俺の鞄に入れてくれねぇか」

 ハバラは朝にも荷物を持たせると、「出るぞ」と背を押した。

「悪いが、話はまた後回しだ」

 こういう時は頷くしかないことを、すでに朝はよく知っている。




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