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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は隠された小屋に着く

 森はどこまでも続いているような深い闇を抱えてそこにある。

 朝はハバラに連れられて森に入ったが、前に入った森と同じとはとても思えなかった。まず、植生が全く違う。砂漠の縁にあったあの森は砂漠の隣とは思えないほど落葉樹が多く、動物も多くいた。だがこの森は気配が違う。日も暮れた闇の中だからかもしれないが、生き物の気配がまるで無い。いや、闇の中でも動く物は必ずいる。むしろ暗闇だから動ける生き物もいるのだ。

 朝はハバラに後れを取らないようなんとか付いていった。だが幸いなことに、それほど歩くこともなく、小さな小屋の入り口にたどり着くことができた。

 そこはハバラが居なければ見つけることができなかったと断言できるほど、巧に森に隠れていた。そのうえ扉を入って先もすぐに岩壁にぶつかる。なにかの偶然が重なってここを見つけたとしても、打ち捨てられた小屋にしか見えない。中には壊れた道具がいくつかあるだけで、ホコリすら見えないように、蔦が静かに這っている。だがハバラは迷うことなくその蔦を避けて奥の岩壁を押し開いた。

「……こういうのって」

「なんだ? 早く入れ」

 ハバラの後から岩壁を潜れば、またそこに木戸があり、その奥には先ほどの小屋と同じ、もしくはいくらか広い空間があり、清潔に整えられていた。

 朝はぐるりと見回した後、「なぜここで暮らさないのかしら」と呟いた。海岸の小屋より広いと言っても三つ子の家よりはよほど狭い空間での呟きが、ハバラの耳に入らないはずもない。ハバラはまた馬鹿なことをと息を吐いた。

「こんな森では暮らしていれば、かえって怪しまれる。だいたい、仕事場まで遠くて仕方がないだろう」

「でもこんなにきちんとしているのだから、普段から使っているのでしょう?」

 ハバラは少し間を置いてから「いや」と首を振った。

「船が来るのは見えたはずだから、急ぎ整えたんだろう」

「あなたが来るのがわかったということ?」

「違う。船に何か災いが乗っていても隠れることができるようにだ」

「それはそれだけ災い多いということなのかしら」

「掘っているものが特殊ということもあるが」

 どの国でも欲しがる鉱石。そしてそれを掘る技術。

「だがそれはここで働いている者なら誰でも同じだ。むしろなにかを危ぶむのはここを束ねている夫婦だろう。警護は固い。ヒナダはもともとは俺の国で傭兵だったからな」

 朝は「え?」とハバラの顔を見つめた。

「傭兵の中でもかなりの腕だし、機密を扱ったこともある。その関係で狙われることがまだあるらしいから、そのためにいつでも隠れることができるようにしているんだろう」

 ハバラは部屋の隅の衝立の奥を覗き、「逃げる用意もしてあるしな」と言った。

「そんな隠れ家でも知っているというのは、あなたは信頼されているのね」

 ハバラが肩をすくめ、「信頼というよりは、共同体というべきか」と言った時、慎重に木戸が開いた。









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