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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は振舞われる

「無沙汰をしている」

 ハバラが扉を開けた男にそう言うと、声をかけられた方は迷惑そうに顔を顰めた。

「……ああ、元気そうだな」

「そう嫌そうな顔をするな。少し話を聞きたいだけだ」

「あんたの少しは迷惑でしかない」

「まぁ、そう言わずに」

 ぐっと前のめりになったハバラは、すでに扉の向うへ入っている。

「……ったく」

 男は渋々とハバラと朝を家へ招き入れた。

 小さな家だ。朝はさっきまでいた船の船室を思い出した。大きなひと間を簡易な仕切り板でいくつかに分けて使っているようだ。扉を入ってすぐ右が土間になっていて竈がある。土間以外はきれいな石と板が敷き詰められている。手前で履物を靴を脱ぐようで、きちんと揃えた靴が1足置かれている。おそらくひとり暮らしの男は、普段は今履いている草履を使い、どこかへ出かける時にだけ靴を履くのだろう。

 奥の仕切りまでそう広くはない。敷物がいくつか敷かれた上にクッションが数個置かれ、その手前に丈の低い卓、その上に茶碗と皿。酒瓶も見えるから、仕事後の1杯というところだったのかもしれない。奥の仕切りの向うは寝室になっているのか、物置として使っているのか。後の水回りは外に別に作られているのか、共同なのかもしれない。家の中に不快な匂いはしない。むしろ清潔で整っていて、そして美味しそうな匂いがしている。

「……腹、減ってるか」

 男の視線が朝に向いたので、余程物欲しそうに見えたのかと、朝は慌てて首を振った。

「いえ、大丈夫です」

 船を降りる前に軽い食事を貰ったばかりだったので、本当に空腹ではなかった。はずだが、家の中の匂いは香ばしくてどこか懐かしい感じがし、そして朝の腹の虫はとても正直ものだった。

「……まだあるから、待ってな」

 男は苦笑してから「水も持ってくる」とハバラに告げて外へ出た。ハバラは「悪いな」とまったく悪く思っていない顔のまま、スタスタと靴を脱いで板の間に上がり込むと、自分の家のように部屋の中を整えて、手招きして自身の横に朝を座らせた。

「悪いやつではない。ちょっと不愛想だが、物知りだ。それにおそらくお前と同じ国の血が入っている」

「え?」

「何代か前には関わっているはずだ」

 ハバラの言葉に朝が返事をできないでいる間に、男は戻ってくると竈に向かい、手早く新たな皿を幾つか持ち、その上、もう片方の腕には茶器まで抱えて板の間に上がった。

「たいしたもんじゃないが、味は悪くない」

 態度の割には自信があるようだ。朝は遠慮せずにいただくことにした。

「ありがとうございます。いただきます」

 男が笑ったような気がしたが、朝が確認する前に、男はハバラに顰めた顔を見せていた。

「で、なんの話よ」

「ああ、このところ話題の内乱と東の国について、ちょっと聞きたいことがある」

 男の顰め面が一層大きくなった。朝は実に美味しい食事をいただきながら、自分は顰め面を浮かべる人に縁があるのかもしれないと思っていた。



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