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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は海の上で

 海を眺めるのは飽きなかった。海ばかりをもう4日は見ているが、海面は色を変えるし、魚や海にしかいないという生き物も顔を出す。クジラを初めて見た時、朝はぱっくりと開けた口をなかなか閉じることができなかった。

「……大きい」

「そうですね」

 朝の隣ではなぜか青い顔をしたショーンが立っている。ショーンはハバラの見込みよりも若く、まだ16才だが船に乗るようになって2年を過ごしている。しかし船にも海にも慣れていないのは想像通りで、毎度船酔いが酷くてあまり仕事を覚えられていない。

「僕も初めて見ます」

「そうなの? こんなに近くにいるのは珍しいのね?」

「……いや、僕が気がづかなかっただけかもしれません」

「こんなに大きいのに?」

 ショーンが返事を迷っている時、朝はハバラに呼ばれて船縁を離れたのでその答えを聞くことは無かったし、それは朝に対してほのかに憧れをもっている青年にとって船酔いで見られないと言わずに済んだタイミングだった。

「なにか?」

「ああ、明日寄る港で船を降りる」

「え、港?」

 周囲をどう見ても海以外見えない。

 内海をところどころの港に寄ってきた時は、常に岸が見え隠れしていたから港に寄ると聞いても実感が沸きやすかったが、海しかないところで港と言われてもピンとこない。

「船長と話をしてきた。このまま順調に行けば日が昇る頃には陸が見える。日が沈む頃には港に入れそうだと言うからちょうどいいだろう」

「そこからは陸を行くのね」

「いや、様子次第かな。そのあたりの状況の話があまり入ってこないから安全を確認しないと。危ないようならまた船に乗るかもしれない」

「この船ではないのね」

 ハバラは「ああ」と頷いた。

「どちらにしろ、この船は荷を積みかえたらすぐに戻るんだ」

「戻る?」

 始めに乗り込んだ時、この船はぐるりと大陸の南を回っていくと聞いていたので、不思議に思って朝は首を傾げた。

「半島の情勢が不安定で荷物の受け渡しが思いのほか減ってしまったことと、今回は見習いが増えてしまったということで、先へ行くのは見送ろうという判断になったらしい。もともと荷がそれほど多くなかったから俺たちも乗れたんだしな」

 仕事が無くなり船に乗りたいという者が増えた結果、このところあちこちの船で見習いが多くなったらしい。とはいっても船乗りというのはなかなかの技術職であるから、誰でもいいというわけでも、すぐに使い物になるというわけでもない。

「とにかく、船を降りる準備はしておけ」

「わかったわ」

 朝が名残惜し気に帆柱を見上げたが、ハバラはそれに気が付かないふりをして彼女の背を押して船室へと促した。






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