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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は海で

 水平線は遙まで繋がり、どこを見ても青い海原以外なにも見えない。

「……すごい」

 海しかないこんな景色は見たことがない。朝は周囲をぐるぐるぐると見回した。

「そろそろ降りるぞ」

「え、もう少し」

「しばらくは海しかない。いくらでも見られる」

 ハバラは朝の背後で顔を顰めたが、朝は「でも」と譲らない。

「もう帆柱に上るのは駄目でしょう?」

「……あと少しだけだぞ」

「ありがとう」

 朝は顔を海に戻した。



 外海に出てしばらくすると、陸地はすっかり見えなくなった。島影ひとつ無い海だ。天気もしばらくは崩れそうにないと聞いて、朝はハバラに頼んだ。

「もう1回、あの天辺に行きたいんだけれど」

「駄目だ」

 即答したハバラに、「船長には誰かと一緒なら大丈夫って言われたわ。ショーンさんが一緒に上ってくれるって」と朝は粘った。

「ショーン。あの航海士か」

 その航海士は今は船尾で、最後に寄った港から乗船した商人の船酔いの介抱をしている。まだ見習いだ。船乗りになって1年も経っていないし、体つきも華奢で青年になり切っていない。まだ白さの残る赤みがかった肌は日焼けにも慣れていないのが明らかだ。おそらく朝より5歳は年下だろう。もし帆柱の天辺で朝がよろけでもしたら、ショーンは支えるどころか一緒になって転げ落ちそうだ。

 それでも朝は諦めそうもない。それにハバラは外洋に出るまでに寄ったどの港でも朝に町歩きを許さなかった。それは危うい国々の事情に巻き込まれない用心ではあったが、窮屈だったろうに、朝は文句ひとつ言わなかった。

「……わかった。俺が一緒に行く」



 朝は海の香りを胸に吸い込んだ。

 海へは幼い頃に、まだ両親が生きていた頃、家族で何回か行ったことがある。それは国の端にある穏やかな内海だったが、やはり同じように潮の香りが強くて体中が塩に浸かったようだった。だが全然嫌な気はしなかった。

 いまも同じように潮の香に浸かったような心持ちだったが、やっぱり嫌な感じはしない。

「海、広いわね。砂漠のようだわ」

「比べ方がおかしい」

 朝の背後でそう言いながら、ハバラは笑顔だった。



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