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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼と夜は恩師の話を聞く・3

「おおよそのところ、場も境目も流動的なものだと思うんだよ。境界を目に見えるものとしているのは国境だろうが、それも自然のものを利用している場合が多い。もちろん塀、門などはあるけれど、それが全部を繋げているというのは実際的ではないからね」

 たしかに、国境線すべてをぐるりと作るというのは難しいだろう。

「さて、うちの村には境目がある。それもくっきりと線として」

 恩師はひと口お茶を飲んで先を続ける。

「夜ちゃんに言われるまで、はっきり気づいていたわけではないけれど、ここには加護があるとは思っていたんだ」

「加護、ですか」

 夜は恩師を見つめながら、小さく言葉にした。

「そう、ここに赴任してきてからずっと、人々は入れ替わっているようなのに、雰囲気が変わらない。基本的には穏やかで安心感がある。のびのびとしているようでいて、内向的。移り住む人達もいないわけではないが、みな、いつのまにか穏やかに村に馴染んでいく」

 確かに、と昼と夜が頷いた。争いの少ない村である。

「この国がそういう風土であるということもあるよ。もともと宗主家は争いごとが嫌いな家だからね。それでも戦が無かったわけではない。歴史の中で境界線は何度も書き換えられている。この100年ほどの落ち着きは国境が定まってきたことにも関係がある。争う理由が一旦無くなったわけでね」

 ジオラマに置かれた小さな国をぐるりと囲むように恩師の指が動いた。

「各国の王家、宗主家、宗教主は争いを止めるために協定を結び、それがうまく働いた結果だと言えるね。だが列車や飛行機などができて、交流が深くなってきている。砂漠の向う側の騒めきもそれほど間を置かずに聞こえてきてしまうように世の中は進んできている。けれどもそんな中でもこの国は緩やかで時が止まったように穏やかだ。余所から来た私は、それを加護だと感じていたんだよ」

「加護」

 今度は昼が呟く。

「境目と意識することなく、風土として村を自然と護っているような、そんな意志が作り上げた場だろうと思っていた。神とか大仰なものではなくて、ひとりひとりの意志が形作る加護だろうと」

 だが、夜がなにげなく尋ねた、どうも線があるようだという事柄を聞き、境目が考えて作られているのかもしれないと気が付いた。

「気がるに言えることではなかったのかもしれないと、もしかしたらこれには意味があるのかもしれないとね。それでも危険があるとも思えないんだけれど」

 恩師はもう1杯のお茶を飲み干すまで、なにかを躊躇うように黙った。昼と夜は何も問わずに待った。

「危ないことは無いと断言できないけれど、それでも、君たちはこの境目のことを知りたいと思うかい? 歴史の中の、聞きたくない話もでてくると思うけれど」

 昼と夜は顔を見合わせた後、何も言わずに頷いた。








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