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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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小休止・閑話1

 本日、ちょっとだけ閑話



 その1・朝が船に乗っている時のハバラとの会話


「あのあたりは色が違うようだわ」

「内海でも流れがあるから、海の中でも高低差ができる。青が濃い方が深い。船乗りはまず、海の流れが読めないと生きていけない」

「お、兄ちゃん、よく知ってんなぁ」

 背後を通った船乗りの大きな声に、ハバラが眉を顰める。

「あ、あそこでなにか光った。あ、また」

「あそこは崖からの水が流れ落ちる崖があって、特別な魚が集まる。それを狙った猛禽も多い」

「あそこは潜ると浮き上がれないから、欲かいて釣りとかしにいっちゃいけねぇよ」

 訳知り顔の古株と思われる船乗りに肩を叩かれ、ハバラがむっとして口を曲げた。

「帆の向きを直しているのは風が変わったからかしら」

「ああ、いまは」

「西風になったからな。じきに日が暮れる。あったかくしとけぇ」

 船長のひと言に、ハバラはついに押し黙ってしまった。

 朝が首をすくめた後、「教えてくれてありがとう」と言うと、しばらくたってから、ぶっきらぼうな「どういたしまして」が返ってきた。



 その2・村に戻ってしばらくした頃の昼と村の郵便局の女性との会話


「今日はこんな。相変わらず分厚いねぇ」

「……ありがとうございます」

「ねぇ、やっぱりこれは恋人からじゃないの? こんな分厚い手紙、そうそう見ないよ」

「いえ、知り合いです」

「そう。でも昼ちゃんは、昼ちゃんだよね?、きれいだからさ、もてるでしょ」

「いえ、そんなことは」

「うちのろくでなしもあんたたちにはいっつも親切にしてやれって言うしさ」

「いつも親切にしていただいています。ありがとうございます」

「うふふ、言わせちゃったわね、ごめんね。あ、これ、昨日焼いたんだけど、持ってって」

「まぁ、ありがとうございます。こんなにたくさん」

「焼きすぎちゃって。息子が町に出ちゃったからさ、食べる人も少なくなったのに、ついつい前と同じに焼いちゃうでしょう」

「そうなんですね」

「食べてもらえると助かるわ。でも3人いるんだからもう少しあった方がいいわね。ちょっと待ってまだあるのよ」

「いえ、あの」

 今はひとりなんです。

 と言い出せないまま、昼は2籠分のパンを持って帰った。



 その3・夜とアシとモン老人の会話


「これは貝殻。らしいんだ」

「貝殻?」

「うん、じいちゃんが若い時に本物の海に行って取ってきたのをばあちゃんにあげて」

「素敵ね」

 モン老人が何事かをひとしきり怒鳴った後、顔を赤くして頷いた。

「ばあちゃんがどれだけ可愛かったかってことを言ってた」

「貝殻に思い出があるのね」

「ばあちゃんは、こういう細かい物っていうか、小さな物が好きだったらしい。僕はあまりよく覚えていないんだけど」

 アシは次に小さく折られたきれいな色紙を夜の手のひらに乗せた。

「これは、星?」

「そう、これはじいちゃんが作ったんだ」

 モン老人はさっきと同じようにワアワアと声を上げてから、照れたように頭を掻いた。

「おばあさまのことが大好きなのね」

「……こういうの、夜も好き?」

「私は」

 束の間考えてから、夜は小さく首を横に振った。

「こうして眺めたりするのは好きだけれど、手に取りたいほどではないの」

 好きだと言った方が簡単な気はしたが、たわいもない嘘でもつくのは躊躇われた。

 モン老人が今度は何も言わずに夜を見つめてから微笑んだ。言葉も意味もわかっているというように。

「じゃあ、夜の好きなものを教えて」

「そうね、私は」

 夜は三つ子の小さな家を思い出し、この家の居間の沢山の椅子を見つめ、「姉妹でお揃いの椅子が好きだわ」と呟いた。

「……それはいつか見たいな」

「……ぜひ」

 モン老人がまた頷いた。








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