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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼と夜は恩師の話を聞く

「ここしばらく、世界の地理の勉強をしたよねぇ」

 恩師は手元の温かな茶を見つめながら言った。

「はい」

 夜はそれ以上言わずに、昼は自分の手元から目をそらさずに、恩師の言葉を待った。

「加えて少しは話もしていたけれど、今日は古い歴史の話をしようと思っているんだよ」

 顔を上げた恩師の表情はどことなく寂し気に見える。昼も夜もただ続きを待った。



 世界は目まぐるしく変わってきている。列車は走行距離を伸ばすために線路を敷き続け、新しい機械を動かすための動力の開発、動力のためのエネルギーの発見、産業は生まれ続け、労働力は必要とされ続ける。何十年も何百年も経った時、この時代はなんと呼ばれるかわからないが、激変していく最中と呼ばれるのは違いないだろう。もっとも、それはいつでも変わらないのかもしれない。

 貨幣価値の乱高下もあり、世界で通用するものはできていない。1番価値があるものは金であるが、価値のある鉱物がある限り、どのような僻地でも鉱山は発掘される。金、銀、銅、鉄、鉱山で見つかるものは幾種類もあるのだ。

「ちょっと話を変えるけどね」

 恩師が空咳をしたので、慌てて昼が新しい茶を恩師のカップへと注いだ。

「ありがとう。さて、夜ちゃん、境目はどうだったかい?」

 目を瞬いてから、夜は恩師の言葉を理解した。

「あ、はい。やはりなんというか、線を引いたように、という感じで境目があるようでした」

 夜は不思議に思っていたのだ。三つ子の家は村の外れ、というより、村の中心地から出てしばらく行ったところにある。近くに他の家は1軒も無い。村としてはきれいに端っこである。その先に村は続かない。林を越えればそこは隣村であるが、その中心地は馬車で4日はかかるほど遠い。その村の先は隣国である。

 夜はその林が線を描いたように続くのを知っている。そして最近、地理を教えて貰っている時に、村の他の境界も全てなにかで線を描いたようになっていることに気が付いたのだ。

――ジオラマってわかりやすい。

 はじめは、それはそれぞれの国を嵌めこむようにして作られているジオラマというものの構造によるものだと思った。部品を繋ぐから線が引いてあるように見えるわけだ。

 だがさまざまな国の関係を習っているうちに、そういえば、と気が付いた。

 村のあっちの端は植林された並木が、あちらの端は川が、あちらは崖が、というように、線で引かれたように区切られているのではないかと思い当たった。

「そうかい、私もねぇ、詳しいことは知らないし、そんなにきちんとわけられているとは思ってもみなかったから気軽に行っておいでなんて言ったんだけれどねぇ」

 恩師は飲みやすく温めにしたお茶を飲み干し、お代わりを入れようとする昼を押しとどめた。

「まだいいよ。その境目っていうのは、なんというか、気持ちというと弱いかな、意思というかな」

「意思?」

 怪訝な顔をする夜に、ぽかんとする昼。そっくりな顔のふたりに、今ここにいないもうひとりの驚いたような顔も恩師はありありと見える気がして、明るい話をするわけでもないのに、つい微笑んでしまった。 





 

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