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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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ハバラは眉間に皺を寄せる

 すでに港は視界になく、岸もどんどん遠くなり、細い線のようにその存在を示すだけになった。それでもそれは消えずにずっと続いていくのは、ここが幅のとてつもなく広い海峡であるからだ。

 ハバラは手摺を離れて振り向いた。出航の忙しなさはとうに消え、船乗り達の肩からは力が抜けている。そのうちの何人かが朝に船乗りの使うロープの結び方を教えている。

 朝は教えてもらっているとおりに結んでいるつもりのようだが、うまくいっていないようで、囲んでいる人々から笑い声があがっている。

 ハバラはため息をつき、甲板に腰を下ろした。

 なぜかどこに行っても、朝は注目を集める。本人は大概わかっていない。どの寺院でも朝は注目の的だったし、道を歩いていてもちらちらと視線を集める。被り物で顔を覆っている時はまだいい。美しい顔立ちは一瞬は気を取られても、いつまでも見つめ続けられることはそうはない。知らん顔をしていれば相手の方で諦めるものだ。ハバラ自身がそんなことは常だからよくわかっている。

 朝は違う。自分を美人だと思っていないこともあるが、彼女の好奇心に溢れた眼差しは、たとえ凡庸な顔立ちだったとしても彼女を目立たせてしまうだろう。

 そしてその人見知りをしない気質のせいか、いつのまにか人の輪の中心にいる。これもまた本人に自覚はない。

「村でもそれほど友人は多くないし。たぶん、3人では夜が1番友達が多いと思うわ」

「昼は誰にでも好かれる方ね。喧嘩もしないし。あ、だからって、私や夜が喧嘩するってわけでもないわよ」

 朝は矛盾することも気づかずに、続けて、村のほとんどの人は3人の見分けがつかないと言う。つまり、姉妹が人に好かれるということは、自分も好かれているという認識が無いのだ。

 ハバラは朝と同じ顔をしたふたりの姉妹に会ってみたいと思う。同じ顔でも性格は違う。朝が話す、昼の穏やかさ、夜の冷静さを見てみたいと思う。

――だがそこまでに。

 朝を無事に家へ送り届けるまでに、どれだけの距離と時間がかかるだろう。それらを頓着はしないが、なかなか手こずりそうな状況に、胸がヒヤヒヤするばかりだ。それに。

――俺は安心できるのか。

 大丈夫だと思えるところまではきちんと送り届ける。その肝である大丈夫だと思えるところがあるのだろうか。三つ子の家は本当に安全だろうか。なにより。

――目を離して大丈夫なのか。

 一緒に過ごす時間が長くなるにつれ、ハバラは眉間に皺を寄せる回数が増えた。









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