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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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ジャンジャックは息を切らす

「それは、スパイってことだろう?」

「大声を出すな」

「だって、スパイって、それはダメだろう!」

「だからうるさいんだってのっ」

 ジャンジャックという青年は、本人はあずかり知らないことだが、わりとモテる。ようだ。短く清潔に切った黒髪はちょっとだけ巻き毛が混じっていて、どうやっても跳ねているところがある。四角い顔も大柄で筋肉質な体も、ぱっと見は少々怖くもあるが、ひと重の瞳は誠実さに溢れているし、笑顔はいつでも柔らかい。

 考えるより先に口を開いてしまう気質だから、馬鹿だ考えなしだと散々に言われることも多いが、頭が悪いわけではないし、仕事に関してはかなりデキる男だから、周囲の信頼は厚い。

 ただ、致命的に鈍い。

 ソー事務所長は、ジャンジャックのことを夫人にそう説明していたし、夫人は彼と会って、それをひと目で理解した。

「いや、でも、俺」

「とりあえず、ほら、茶でも飲め」

 ソー事務所長からカップを受け取り、ジャンジャックは冷めてしまった茶を一気に飲み干した。

 サマンサ・フロイラ夫人は小さな溜息をつきながら、この短慮なところと鈍さが無ければ、いや、もう少しだけそれらが抑えられていれば、ジャンジャックは夫人よりも先に昼に頼られていたに違いないと思った。

 もともと夫人が先に出会ったていたとしても、その後に縁があって昼を家にまで送り届けたのはジャンジャックだし、その後に何度も手紙のやりとりをしたのもジャンジャックなのだ。夫人は昼が再び訪ねてくれるまで、2度ほど手紙を貰い、2度目の返事は少し間を置いてと考えていたら、ちょっと間が開きすぎていたところだった。

 こうして慌ててやってきたジャンジャックを出迎えた、いままで会った事のないサマンサ・フロイラ夫人を、彼はもう実の祖母のように話しかける。「はじめまして」から、「なんかあったらいつでも連絡して」までが、ものの5分もかからなかった。そして昼から聞いた話をする前に、昼とどんなように知り合ったのか、どう思っているかをさりげなく聞き出そうとしていた夫人を前に、思いのたけはすべて吐き出されている。

 それから昼が尋ねてきた理由を説明していたわけだが。

 夫人は入れ直したお茶を手渡すと、ジャンジャックは「ありがとう」と言ってから、「すんません」とソー事務所長と夫人に頭を下げて椅子に座った。

――でもねえ。

 昼はその距離感を戸惑う娘だろうと、夫人は思う。

「落ち着いたか」

「……はい。すみませんでした」

「よし。じゃ、もっかい説明するから。ええっと、俺よりは、あの、お願いしてもいいかい?」

「もちろんよ」

 サマンサ・フロイラ夫人は、ソー事務所長の言葉をはしょりすぎていた話を、丁寧に、ジャンジャックがきちんと理解できるように話しはじめた。




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