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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は話を聞き、お茶を飲む

「仲良しではない」

「……そう」

 忌々しそうに顔を顰めるハバラに、それ以上の返事もしようがなく朝はそのまま話の続きを待った。

 ハバラはお茶をひと口飲んで「まあ、友人ではある」と呟いてから、何も言わなかったかのように先を続けた。ペンが地図の上で大きな輪を描いた。

「この国々は協定を結んでいる。有事には互いに助け合うという協定だが、これは裏を返せばその名目で混乱している国に入りやすくなるということでもある」

「面倒ね」

「政治は面倒に見える方が都合がいいんだ」

「そうなの?」

「権力を掌握しやすくなるからな」

「……面倒ね」

「その協定を盾にして騎兵はあちこちの国に派遣される。通常は合同演習や友好的視察という、まあ、見張りとか偵察などのためだが、この前のように威圧的に動く時は有事の時だ。馬が3頭以上で動いている時はどこの国でも道を開けなければならないのだが、ああも見てくれと言わんばかりに動いているということは、すでに内乱の細かな情報を得ていて、その上抑制する必要があると感じたからだろう。内乱を知ったばかりなら、混乱を起こすような状態は避けるはずだからな」

「……なるほど」

 わかるような、わからないような。

「細かな事は覚えなくていい。とにかく国家間で内乱の情報は思いのほか早く回っていた。そして騎兵隊も動き始めていた。つまり俺の国は周囲の国を固めに走っていた」

 束の間、ハバラは押し黙り、眉間の皺がますます深くなった。

 朝はカップを両手に持ち直して暖かなスープを啜った。牛乳をベースに、細かく刻まれた野菜が入っている。

「……いや、あの時点で騎兵隊が隣国周辺で抑止に動いていたのは早すぎると思ってあれから時々で調べてはいたんだ。グラカエスにもギュイットにも伝えてある。だがここにも来ているとは思わなかった」

「じゃあ、さっき、その人がいたの?」

 町中で朝を引き留めた時、ハバラはなにかに気がついたようだったと思い出した。

「いや、あいつじゃない。だが同じ騎兵隊の兵士がふたり、それも私服でいた」

「よくわかったわね」

「言っただろう、俺も入っていたんだ。いまでも隊にいる人間の顔はほぼ知っている」

「そういうものなの? 何人もいるんでしょう?」

「1個隊で数十人だな。騎兵隊全体では数百人だろう。少ないな」

「……そう」

 手にしていたカップの中身が空になってしまった。朝がカップを床にそっと置くと、ハバラは別のカップを「ほら」と渡した。香り良いお茶が入っている。

「ありがとう」

「いろいろあってすぐに辞めたんだが」

 そのいろいろの部分は今訊くべきではないんだろうと、朝はお茶を飲んだ。スープもお茶もとても美味しい。安い宿で食事は出ないと言っていたが、こういうものが手軽に調達できるのなら食事を出す必要はないのだろう。食事とは時間と材料と手間がかかるものだから、そこを省ければ安くすることができるに違いない。

「私服で、それもなるべく目立たないようにと行動していた。偵察だろう。ここで見つかると俺も官長の偵察で来ていると勘繰られる」

――目立たないようにしていてもわかってしまうのか。

 朝はまたひと口、お茶を飲んだ。

「それであの宿を抜け場所にして避難したわけだ。お前には負担をかけたな。すまなかった」

「私は大丈夫。それよりあの宿の人は大丈夫なの?」

「女将は慣れている。次に顔を出した時にねちねち絡まれるぐらいだ。彼女を襲うような馬鹿者はそれこそいない。それに口は堅い」

「なるほど」

 そこで朝はお茶を飲み干してから尋ねた。

「じゃあ、これからどうしましょう」

「悪いが船が出るまでここにいよう。それまでに話たいことも集めたい物もある」

「集めたい物?」

「ああ、とりあえず、茶をもう1杯どうだ」

 腰を浮かせたハバラに、朝は「お願いします」とカップを渡した。




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