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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は宿屋で地図を描く

「この国のおおよその位置はわかるか」

「地図で見た位置ならわかると思うわ」

 朝は自分の鞄から紙を数枚取り出し、グラカエスから貰ったインクのいらないペンで海と陸の形を書いていく。

「ここが砂漠。ここからこう動いて、グラカエスの寺院、ギュイットの寺院、船に乗っていまは」

「この辺りがこの港町だ」

 朝が書いた地図はかなり略されているとはいえ、正確に地形を捉えているし、距離の縮尺もあっている。これはもともと空間を理解する能力が優れているのかもしれないが、かなり勉強もしたのだろうとハバラは朝を見て微笑んだ。

 物見遊山で砂漠に出てきてしまうような考えなしな面や、好奇心が強くて物怖じもしないからひやひやすることも多いが、なるほど確かに朝はきちんと物事を理解しようとする努力を惜しまない。日常の細々としたところに向ける気配りからも、頭のいい人であることはわかっていた。

 その朝は、「お行儀が悪いわね」と言いながら、膝の上に広げた布の上にハムとチーズをのせたパンを置き、大振りのカップを左手で持ち、右手に持ったペンを卓上に広げた紙の上で動かす。ハバラの顔など見もしない。

 確かに行儀はよくない。だが食事をしながらでもないとじっくり話をする時間が持てないし、狭い卓の上には紙を広げれば皿を置く場所など作れない。

 ハバラもそこは気にせずにパンにかぶりついている。じきに町の食堂で食事や酒を呑んだ人々が宿に戻り、もっと賑やかになるだろう。ここは食堂がついていない宿だから安いし、信用できる顔見知りが経営しているから安全はかなり確信できる。だが安い分部屋はほぼ埋まっている。どんな人間が泊まっているかまではわからないし、なにより女性は少ない。たぶん、夫婦者がいればいるだろう、ぐらいのものだ。大部屋ではないとはいえ、朝の声は女性にしては低めだがよく通る。控えめにしていても、聞き取りやすいから誰かの耳に残らないとも限らない。

「この町で」

 ハバラは手に残ったパンくずを払ってから朝からペンを借りて印をつけた。それは砂漠を抜けて最初に着いた国の南にある国。再び砂漠へ出てから門を潜った国だ。

「出会ったやつを覚えているか。俺の幼馴染だと伝えた男だ」

「馬の上から話しかけられたのは覚えているけれど、顔は見ていないからわからないわ」

「それはそうだな」

 ハバラは「なんていうか」と躊躇ってから、話をつづけた。

「幼馴染は騎兵隊に入隊して、いまでは1個隊を任されているし、恐らくじきにより上の要職につくだろう」

「え、それは凄いのではないかしら」

 ハバラの年齢はわからないが、隊を率いるにはまだ若いように感じる。幼馴染というからにはさほど年の差はないだろう。

「あいつと俺は同じ年だ。それに優秀なんだ」

 朝が不思議に思ったことはよく聞かれることらしい。

「俺は一緒に騎兵隊に入隊した」

「え?」

「長くはいなかったんだが」

 朝はあの時に頭上で交わされた会話をなんとなく思いだして頷いた。密偵だの、修行を飽きればいいだの、そんな言葉があった気がする。

「仲良しだったのね」

 ハバラが顔を顰めた。







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