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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼と夜は馬車に乗る

 三つ子はこの国の女性として小柄というわけではない。平均的と言っていいだろう。どちらかと言えば細めではあるが、生業のせいか筋肉質であるので痩せているというわけではない。

 だが村役場で働いている青年は、軽々と夜を抱きあげると、誰の手も借りずに崖を上るという荒業を見せた。

「ありがとう。助かりました」

 荷車に乗せてもらい、夜はやっと肩の力が抜けた。

「いやぁ、大怪我というわけでもなくて良かった。あ、診療所で見て貰ったら役場に寄って。俺、送るから」

 青年は昼も夜も知っている。役場ではなんでもこなす働き者だ。2歳年下で、彼の兄は三つ子と同い年だし、その兄が去年結婚したのは三つ子の数少ない友人のひとりだ。青年は三つ子の区別はついていないが、怪我をしたのが夜と聞けば、朝がいない今、もうひとりは昼だとわかるぐらいには知っている。

 夜の隣に乗り込んだ昼が、慌てて「そんな」と青年を押しとどめるように手をあげた。

「それは悪いわ。先生に荷車を借りるから」

「それを昼さんが轢いていくのか? それは無理だろう」

「そうね。まあ、難しい、かしら」

 そう言いながらもやってみようとしそうな昼に、「無理よ」と押しとどめた後、夜は「悪いけれど」と青年を見上げた。

「お願いします。仕事の後でかまわないので」

「うん。いつでも呼んで」

 夜の視線を受けた青年はわかりやすく頬を染めた。三つ子の誰と区別はついていないようなのに、夜は誰にでもこういう顔をさせる。夜本人は気づかない、というよりはそんなものだと慣れているところがあるし、昼も見慣れているので特にどうとも思わない。昼自身は自分がそういう顔をさせることがあるということに全く気がついていない。

「じゃ、じゃあ、俺、ふたりを連れていくんで」

 馬で乗ってきたのは役場の人がふたり、後から見習い僧の少年が息を切らして戻ってきており、他に村でも体格のいい男性が3人いる。それなりに人数がいるのは、あの爆音と、少なからず見ていた人がいた立ち上った煙のせいだ。思いのほか早く助けが来たのは、もともとその原因を確かめるために準備を始めていたからだった。

「おう。ああ、ふたりとも、後で話を聞かせてください」

 役場ではいつも笑顔でいながら、揉め事の仲裁が異常にうまい副村長が青年に向けた顔は少し厳しいものだったが、すぐその後には昼と夜に笑顔を見せた。

「私が診療所に行きますから、待っててもらっていいですかね。その後に送らせますから」

 副村長の言葉に、青年が頷いた。

「ああ、その方がいいですね。じゃあ、診療所に迎えにいくんで」

 夜は「わかりました」と答えた後、副村長にも頭を下げた。

「ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします」

「いやいやいやいや、こちらこそ。なんか巻き込まれてしまったようなのに、すまないですね」

 揉め事に慣れている副村長ですら、夜に見つめられれば顔を染めるほどである。これは彼の妻が見たら違う顔色に変わるところかもしれない。

 副村長の表情を見た昼は少し首を竦め、馬車が出るのを待った。





 

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