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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝はまだまだ砂漠を行く

「全然近づいている気がしないわ」

 朝が不満気にそう言ったのは、礫の小山の中に、男がなんとか作った日陰の中で小休止を取っている時だった。

 少しだけ眠ってから起き、空を見上げても太陽はまだ天頂に上りきっていないし、町の門は地平線にへばりついて大きくなる気配が無い。

 男はと言えば、なんの憂いも無い顔でらくだにもたれかかっている。そして朝を見上げると、「言いたいことがあるなら言ってみろ」と言ったのだ。

 朝は爪先立ちになり、足先は砂にめり込んだが、それでも少しでも遠くが見えるようにとしながら、町の門を見、男を見、そしてもう一回門を見てから、不満を述べたのだ。

「あそこに辿り着けることがあるのか、不安になってきたわ」

 男は「大丈夫だ」と言って目を閉じた。

「すぐによく見えるようになる。だからちゃんと休め」

 おとなしく畳まれた布に座ってはみたものの、落ち着かない事この上ない。日陰になった砂はひん背中を冷やすが、頭上を渦巻く熱気は途切れない。近づく気配のない門。ほんの少しだけ、言われた通りに目を瞑った朝は、いくらもたたないうちに立ち上がると、門の方を見ては腰を降ろし、見ては降ろしを繰り返した。

 朝が何度も繰り返すものだから、男はとうとう、「仕方がないな」と体を起こした。

「それほど元気があるなら今のうちに進んでおくか。こいつが歩けるところまで」

 男がらくだを優しく促すと、らくだは「喜んで」とでも言っているかのように体を起こした。

「途中でへばっても、休めるところがあるとは限らないぞ」

 朝は、休んでいた方がいいかしらと、弱気な言葉が出かけた口を閉じた。たとえ早く辿り着けなくても、ここで焦っているよりは気持ちが休まると思ったのだ。前へ進んでいると思うことに加え、見ているうちに門が近づいてくるのがわかるかもしれない。

「わかった。覚悟しておくわ」

 精一杯強気な言葉には答えずに仕度を整えた男は、顎をしゃくってらくだに乗るよう促した。朝は少しは慣れてきたらくだの背中に座り込むと、揺れに負けないように前を見つめた。

 男は男で、たぶんにいらいらしていたのだろうと思う。砂漠で昼間に歩くのは正気の沙汰ではない。もっとも、男は用心に重ねた準備をオアシスで済ませていたから、自分自身も早く町へ着きたい気持ちに押されたのかもしれない。

 熱を避ける布を被って、ふたりと1頭はゆっくりと歩き出した。


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