表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
118/247

朝は船で

「朝っ!」

 ハバラの顔が引き攣っているのが、帆柱の上にある物見台からもよくわかった。朝は内心しまったと思いながらも、なんとか笑って手を振った。

「大丈夫、いま降りるから」

 ハバラはただ唇を片端引き上げた。かなり怒っているようだ。だいたいハバラが名前を呼ぶなんてことはこれまでほとんど無かった。朝は首をすくめ、ここまで上るのに手を貸してくれた船乗りに「降りるわ」と言って、ロープのはしごに足をかける。

「気をつけてくれよ。あの顔、お前さんが落ちでもしたら、俺ぁ殺されそうだ」

「大丈夫、大丈夫。私、上るのも上手かったでしょう?」

「まあ、初めてとは思えないぐらいだったが、降りるのはより危険だからな。ほら、足元しっかりしてくれ」

「わかった、ありがとう」

 心配する間もなくするすると降りてきた朝を見て、ハバラはつめていた息を吐いた。朝は怒られるのを覚悟しながらハバラの傍らへ行った。

「ごめんなさい。心配かけてしまって」

「……」

 先に謝られて躊躇した間があいたが、それでもしっかりと雷は落ちた。

「巡礼者としてもだが、女が帆柱に上るのは目立ちすぎるし反感を買う。もう少し常識を考えろ」

「そうか、そうよね。ごめんなさい」

 確かに女性が帆柱を上れば目立つ。海の神は女性を嫌うと聞いたこともある。それが本当か嘘かはわからないが、快く思わない人もいるだろうし、船旅で逃げ場のない中、関係が悪くなるのはよくないだろう。どうしても高いところからの眺めが見たくて、人のよい船乗りに無理を言ってしまったことに、朝は今更ながら反省した。

「だいいち、危ないだろう」

 スルスルと降りてきた朝には、1番に危ないとは言えなかったのかもしれない。だが危険なことに変わりはない。

「気をつけます」

「もう上るな」

「……はい」

 そこでやっと、ハバラは眉間の皺を緩めた。

「船乗りのひとりから、面白い話を聞いた。それにじきに最初の寄港地に着く。そこに2日ほど停泊するから、その間にこれからの話をしよう」

「これから」

「ああ、これからだ。いまお前が見ていた内海の外の話だ」

 嫌味かもしれなかったが、それよりも朝の好奇心が勝った。

「楽しみだわ」

 ハバラは再び眉間の皺を深めると、「また手伝いにいくから、お前は船室に戻れ。船乗りの手を煩わすな。危険な真似をするな」と繰り返し念を押し、朝はただただ頷いた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ