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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼は走る

 大きな音がした。

 昼が馬車から降りて村のひとつしかない繁華な道へと向き直った時、その音は聞こえた。馬車からは人も荷もすべて下ろされた後で、周囲もなんだか落ち着いてふうっと息をついた時、人々の肩から力が抜けたような時、その音は村を抜けて届いた。

「なんだ、いまの」

「なになに、地震?」

「地震って、揺れてねぇよぅ」

「お父さぁん!」

「うわああああん」

「待て、落ち着け」

「なんかあったか?」

「どっかで普請があったかしらねぇ」

「お腹空いたぁ」

 人々の声はそれでも案外早くに落ち着いた。音は1度きりだったからだ。

 だがそれでも村の警備や役所の人々は慌てた様子で周囲を走り回った。

 昼はしばらくぼうっとしてしまった。かなり大きな音で、びっくりした。だが音の出所がわからない。見回してもよくわからなかった。周囲も落ち着いてしまえば普段通りで、いまのはなんだったのかわからないと、ようやく歩き出した時、声をかけられた。

「ええっと、昼ちゃん? 昼ちゃんかい?」

 見れば恩師が青い顔をして昼へと向かってくる。

「先生?」

「さっき夜ちゃんが学校に来てね。昼ちゃんが今日帰ってくるからって」

「夜が?」

――やっぱり心配してたのかな。

 昼はサマンサ・フロイラ夫人とソー事務所長のかなり強めの引き留めを振り切って帰ってきた。それは正解だったと思った時、恩師が続けた言葉で昼も青くなった。

「さっきの音を聞いたかい? 村の外れの方だと思うんだ。いま、夜ちゃんがそっちへ行っていて」

「夜が? どうして?」

「調べたいことがあるからと言うから、実際に見てきたらどうかと思ってね。うちの子とラバとをつけたんだが」

 何がなんだかわからないまま、昼は荷物を恩師に押し付けた。いつもの鞄の他に、フロイラ夫人にこれでもかと持たされた食べ物と小さな苗がふたつ。

「誰かに持ってもらってください。私、ちょっと見てきますから」

「待ちなさい、馬を」

「走った方が早いですから」

 何がなんだかわからないけれど、何かが起こったと決まったわけではないけれど、大きな音がした方向に夜がいるかもしれない。それだけだ。それでも昼は、恩師の返事を聞かずに走り出した。



 村の境の林の向うに細い煙が立っているのが見える。すでに消えそうではあるが、灰色の煙が木々より高く伸びている。

 昼はたまらず叫んだ。

「夜っ」

 恩師が言っていた見習い僧もラバもいない。夜はここにはいないのではないかと思うけれど、ここまでのそれほど遠くない道のりではすれ違わなかった。

「夜っ、どこっ」

 とにかく端まで行ってみようと走っていたら、妹の声が聞こえた。




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